ダニエル・スティールは、アメリカで一、二を争う超人気女性作家。
ニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストに、なんと381週連続でランクインするというギネス記録を持っている。

そんな凄い人の本を、100冊以上ある著作を、私はこれまで一冊も読んでいなかった。
それどころか名前すら聞いたことがあるかないか……という程度の認識しか持ち合わせていなかったというのが正直なところ。

最近読んだ「ベストセラーコード」という本の中で、彼女(とジョン・グリシャム)のことをベタ褒めしていたのを機に、さっそく読んでみることにした。

何から読んだらいいのか分からないので、タイトルで選ぶ。
「運命のコンチェルト」なんて良さそう。
原題は「Star」。シンプルでかっこいい。

“コンチェルト”というくらいだから、クラシック音楽界を舞台にした話かなと思ったら、ちょっと違った。
カリフォルニアの裕福な農家に生まれ育った少女クリスタルが、持って生まれた歌の才能をたよりに、ハリウッドへ行き、スターへの階段を駆け上がるべく、一生懸命がんばる、という内容だった。

エスカレーターのように、スーッと上がって行ければいいのかも知れないが、それでは読んでいて面白くない。
そこにはこれでもかと言わんばかりの“波瀾万丈”が待っているわけで……。

文庫本にして650ページという分量の中で、クリスタルは人々の愛に助けられたり、ときには人々の悪意に突き落とされもする。
だが簡単にはくじけない。
希望を捨てず、ふたたび立ち上がり、行動していく。
その姿はあたかも暴風雨の中を、目的地を目指し、懸命に飛び続けるけなげな小鳥のようだ。

読み終えて、本を閉じたときは、正直ヘトヘトになった。
それでもまた次の作品を読みたいと思わせてくれるところは、超ベストセラー作家の力のなせるわざだろう。

ダニエル・スティールという人は、おそらく人間が大好きなのだと思う。
人生を愛し、家族を愛し、書くことを愛している。
そんな想いが物語を通して伝わってくる。

素晴らしい作家と出会えて、私も幸せだ。

(以下、引用です)
「こんにちは」口をひらいたのはスペンサーのほうだった。少女は答えるのを恐れているようすだ。スペンサーはほほえみかけたかったが、少女の瞳の前に麻痺したようになっていた。こんなに青い目は見たことがない。夏の夜明けを思わせるラヴェンダーの色。「楽しんでるかい?」
口にするのも愚かしいことばだが、いま頭を占領している思いをそのまま口にして“きみはすばらしくきれいだ”などとはいえなかった。おもむろに少女はほほえんで、森のなかからあらわれる牝鹿のように用心ぶかく歩いてきた。ぼくに興味があるんだ。目を見ると、それがわかった。だがこちらから近寄ると、驚いて逃げていってしまいそうで、スペンサーとしては近づいてくるのを待つしかなかった。手を貸して、引っぱってやりたい気分だった。
「あなた、トムのお友だち?」少女の声は深くよどみなく、さわってほしがっているようなその淡いブロンドにも通じるつややかさがあった。気を確かにもたねば。相手はまだほんの子どもじゃないか。それでいてスペンサーは、自分の感情に驚いていた。からだの線がはっきりわかるピンクのドレスを着たジニー・ウェブスターが発散していた、あからさまなセクシーさとはちがい、尾根に咲く野の花のような、あえかな魅惑が感じられる。


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