これは私の中で大傑作。
10年くらい前、CSで初めて観て以来、5回以上観たと思う。
最近、VHSビデオテープを整理していたらこれが出て来て、久々に観たらやっぱりすごく良い。

主演の陣内孝則が演じる片山という刑事は、女性恐怖症という設定。
さらに高いところがダメ、血を見るのもダメという、どうにも頼りなげな青年だ。
これを、体格がよくケンカも強そうな陣内孝則が演じるところが面白い。またこれ以上ないほど嵌まっている。

彼の妹役が葉月里緒奈。
もうこれが凄いというほかない。

赤川次郎の小説に出てくる女の子は、気が強くて、元気で、ポジティブで、というイメージだ。
ところが葉月里緒奈演じる晴美という女性は、寂しそうで、不幸せそうで、これは映画が終わる頃には絶対に生きていないなと思わせる、いかにも儚げなキャラクターなのだ。

晴美の登場シーンが、まず良い。
買い物帰りの晴美が、自転車で坂を駆け下りてくる。
急に黒ネコが飛び出してきて、よけきれず転倒。
せっかく買った豆腐がめちゃめちゃに。

数シーン後、安アパートの一室。
兄妹の食事シーン。台所に立つ晴美。
型崩れした豆腐を料理に使っている。
ということは、あのあと豆腐を拾って、丁寧に洗ったのだろう。
晴美のヒザの絆創膏が痛々しい。

…ここまでのシーンで、すでに多くの視聴者を、晴美は虜にしたと思う。

この時、片山兄はベラベラと、夫が妻を殺した事件のことを語っているのだが、この何気ない話も伏線になっている。
もちろん、晴美を転ばしたのがネコというのも暗示的だ。

片山兄が函館に出張した後、晴美はアパートにひとりぼっち。
ここでアパートの周りに薔薇の花(と思う)が咲き乱れる。
画面の色が紫がかっているので、うす紫色の薔薇にみえる。

晴美がアパートを出入りするという、ただそれだけのシーンのために、大林宣彦監督はこれだけ手間をかけた。
葉月里緒奈のために、葉月里緒奈を美しく撮るために、これほどまでに精魂を傾けた監督に心より敬意を表したい。

片山兄が出張に立つ朝、見送りに出た晴美は、手編みの毛糸の帽子を兄にかぶせてあげる。
この帽子がアイテムとして非常に効いている。

スヌーピーの仲間、ライナスの毛布のような、あるいはそれ以上の価値を、片山兄はこの帽子に感じているようだ。
片山兄にとっての帽子は、晴美そのものでもあるのだ。

その帽子を、ある人物が無断でかぶり、晴美の前に姿を現わしたりする。
その人物は、晴美が兄のために編んだ帽子ということを知っていて、晴美を挑発しているわけだ。

また、これはネタバレになってしまうが、犯人が誰か、ドラマの前半部分ですでにこの帽子により明示されている。

簡単に説明すると以下のようなことになる。

(この先、ネタバレです!)

・函館に着いた片山は、その日の夜からプレハブ小屋にひそんで、寮の監視を始める。この時、プレハブ小屋の中にはいろいろなものが置かれ、雑然としている。

・アクシデントが発生し、片山はいったんプレハブ小屋を離れる。このとき帽子をプレハブ小屋の中に忘れていく。

・アクシデントが収束し、片山がプレハブ小屋に戻ってみると、中はがらんどう。一切のものが消え失せていた。毛糸の帽子を除いて。
(犯人は、ある完全犯罪を成立させるために、どうしてもプレハブ小屋の中を空にしなければならなかった)

…犯人はなぜ毛糸の帽子だけを残していったのか。

答えは一つ。
犯人は知っていたのだ。
その帽子が片山兄にとって宝物だということを。

あの時点でそれを知っている人物はひとりしかいない。
そしてその人物は、片山兄の妹への思いを踏みにじることができない、優しい心の持ち主でもあった。
その人物が犯人だ。

帽子のナゾについてはドラマの中では全く語られていない。
だから全く見当違いの解釈をしているおそれもあり。
その際は何とぞご容赦ください。

(追記 : やらかしてしまいました。上の見解は絶対とは言えないまでも、非常に無理があることが判明致しました。自戒の意味も込めて、削除せずにおきたいと思います。大変失礼致しました。2016.9.30)

ほかにも警察署長室にかけられている絵画───青函連絡船の摩周丸と八甲田丸───で、船の位置がなぜか反対に描かれていたり。
その意味するところは何なのか、こちらの興味を引きつけて止まない。

晴美が思いをこめて見つめる栞が、意外なところで出て来たり、片山兄をエスコートする女子大生・雪子(山本未來)の描く絵がとてつもなく孤独を感じさせるものだったり、観るほどに気づきが増えていく。とても奥の深い映画だ。

最後になってしまったが、音楽のつけ方が抜群に良い。
何度もリピートしたくなるのは音楽の力も大きい。

こうなったら第2弾も観るしかないか。
葉月里緒奈は出ていないし、脚本は中岡京平じゃないし、この映画を上回る映画というものをうまく想像できないでいるので、ちょっと怖いのだけれど…。

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キャスト

片山義太郎(警視庁捜査一課の刑事) - 陣内孝則
片山晴美(片山の妹) - 葉月里緒奈
吉塚雪子(森崎学園4回生) - 山本未來
三田村繁(函館港警察署警部) - 井川比佐志
夏木猛(函館港警察署部長) - 大和田伸也
石津国明(函館港警察署の刑事) - 堀広道
栗原(警視庁警視) - 今井健二
森崎智雄(森崎学園文学部長・教授) - 平幹二朗
阿部俊三(森崎学園学長) - 前田武彦
小峰荘八(寮の管理人) - 須賀不二男
富田和生(森崎学園講師) - 頭師孝雄
秋吉凡人(森崎学園講師) - 小形雄二
大中兼一(森崎学園講師) - 綾田俊樹
今井広三(工事現場主任) - 大前均
石津の母 - 野口ふみえ
夏木の妻 - 根岸季衣
片山兄妹の母 - 小林かおり
片山兄妹の父 - 真田健一郎
三田村の娘 - 伊藤歩
タクシーの運転手 - 河原さぶ
石垣栄(森崎学園警備員) - 片桐順一郎
乾由美子(森崎学園学生) - 椎名ルミ
三崎寛子(森崎学園学生) - 柴山智加
佐々木和美(森崎学園学生) - 樋口かおる
西岡千江子(森崎学園学生) - 駒井理香
あくびをする少女 - 市川桂
鑑識員 - 栩野幸知
妊婦 - 木村由貴子
若い刑事(警視庁捜査一課) - 林泰文
三毛猫ホームズ - ネネ

監督・撮影台本・編集: 大林宣彦
原作: 赤川次郎
脚本: 中岡京平
撮影: 大沢栄一
照明: 椎原教貴
美術: 竹内公一
衣裳: 新井正人
録音: 芦原邦雄
音楽: 學草太郎 山下康介(編曲・指揮)
プロデューサー: 五十嵐文郎 高橋勝 大林恭子



マインドマップ版をアップロードしようとしたら変な風になってしまった。
備忘録がてら残しておきます。

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