本日、9月12日は俳優・日守新一の命日。
ということで『浅草の灯』を観賞したが、日守氏ちょこっとしか出ておらず残念。

『浅草の灯』は島津保次郎監督にしては珍しく、ちょっと暗い。
GHQの検閲により27分も切られたからか。
とにかくあらすじを追ってみる。

(以下、ネタバレあります!)

「ぺろぺろぺ〜、ぺろぺろペ〜」と和気あいあい、熱気むんむんの浅草オペラ。
新人の麗子(高峰三枝子)に、超満員の客席から花束が投げられる。

そんな麗子の肉体を狙っているのが、浅草の顔役・半田(武田秀郎)。
その子分の大平(河村黎吉)のゲスな笑いときたら!
この人はこういう役をやらせたら絶品だなあ。

麗子の後見人?のマダム呉子(岡村文子)も、半田のグルだ。
高価な着物をどんどん買い与え、そのお金は麗子の借金につけるというあくどさ。
麗子、貞操のピンチ。

ここで現われたのが一座の長・佐々木先生(西村青児)。
毅然とした態度で麗子を救い出す。
さらに半田たちに楽屋への出入り禁止を言い渡す。
麗子愛人化計画を阻止され、復讐に燃える半田たちであった。

地回りの仙吉(磯野秋雄)がイカサマくじで客を集めている。
と見せかけて、どさくさに紛れ、客の財布を抜き取る。

その一部始終を見ていて咎める男がいた。
これが麗子の追っかけをしているボカ長(夏川大二郎)。
麗子に花を捧げた男だ。

ケンカは弱そうだが、正義感は強い。
けれどどこかピントがずれているという何とも不思議な絵描きだ。

もみあう仙吉とボカ長。
ここで仲裁に入ったのがカウボーイ姿の伊達男、山上(上原謙)だ。
山上は役者で、腕に覚えがあり、チンピラ連中から一目置かれている。

ボカ長と山上は、これを縁に仲良くなる。
麗子も紹介してやるといわれ、大喜びのボカ長である。

仙吉らは、佐々木の舞台をぶちこわしにかかる。半田親分の命令だ。

…ここで杉村春子28歳の歌と踊りが堪能できる。これは貴重。
杉村の役どころは摩利枝という、ちょっとトウのたったプリマドンナ。
座長・佐々木の妻でもある。

佐々木先生、やじられまくってブチぎれる。
途中で幕が引かれ、芝居は中止。
楽屋裏、佐々木は降板すると言って聞かない。
しかし摩利枝は残るという。

じつは摩利江、半田に通じていた。
(なんと、あなたもそっち側でしたか)
自分の劇団を立ち上げたいと、金の無心をする。
「だったら麗子を何とかしてくれなくちゃ」とニヤニヤする半田。

摩利江はさっそく麗子に言い含める。
麗子、うなずくしかない。そして号泣。
みかねた同僚の紅子(藤原か弥子)、身代わりを買って出る。
もちろん(?)半田は激怒する。

ここで団員が一致団結して麗子をかくまうことに。
白羽の矢が立ったのはボカ長の下宿。
二人、清らかな同棲生活を始める。
ここで高峰三枝子の美声披露。さすが島津監督、ファンサービスも忘れません。

またもやお預けを食らった半田は摩利江に電話。
クレーム対応する摩利江。
さては山上だな、と見当をつけ詰問する。

山上が困っているところへ、オペラ歌手の香取(笠智衆)が割って入り、罪をかぶってくれる。
麗子さんと自分が関西へ駆け落ちするのだと。
摩利江、しぶしぶ引き下がる。

このように劇団員が大変な苦労をしていたころ、麗子とボカ長たちはアパートで楽しくトランプに興じていた。
そこへ現われた山上、ブチぎれてボカ長を殴る。
山上が去った後、ボカ長が麗子にプロポーズ。

浅草へ戻った山上へ、的屋の女・お竜(坪内美子)がプロポーズじみた告白。
(ちょっと唐突な流れ。でも振られたシーンの演出は素晴らしい!
雨の中、取り残されたお竜。カメラがすっと足元に降りる。哀しげに歩み始める、その心細さ…)

山上、芝居小屋に帰ると佐々木先生と摩利江が夫婦ゲンカをしている。
仲裁に入る山上。しかし決裂。
山上、いきなり刃物を出す。摩利江、ビックリ。
しかしこれは山上が自分の小指を詰めるためだった。

「あなたが大人しく引き下がってくれないと私が小指を落としますよ」
山上の気合いに、さすがの摩利江も参った。

その頃、ボカチョウが半田一味に捕まり、拉致されていた。
山上、助けに行く。
ここで大立ち回り…だがカット。
山上、チンピラども(この中に日守新一氏!)をなぎ倒した模様。

ボカチョウを助け出す。
山上は結局、お竜といっしょに大阪へ向かうのだった。(終わり)

感想。。。

いろいろ引っかかるところの多い映画だった。
ヤクザといえども、舞台をぶち壊すというのはいかがなものか。

日々精を出して働いて、どうにか金を工面して、週に一度、月に一度の楽しみとして観劇に行く。
その素人衆に迷惑かけまくりで、いったい何の得があるのか。
芸人や役者は別天地を求めて他へ移っていくだろうし、人々も浅草に寄りつかなくなるだろう。

舞台は「場」があって初めて成り立つ。
その「場」を破壊されたのでは話にならない。
もしぶち壊す者が現われたとしたら、それは全力で排除しなければならない。
人間の営みを全否定する暴挙を許してはいけない。

映画の中では、手をこまねいて見ていたわけではないにせよ、阻止した側が東京を離れなければならないことになり、チンピラどもはそのまま浅草に居座ったままのようだ。カットされているので断定はできないが。

舞台に限らず、音楽会、スポーツ、美術展、これらは「場」が保証されて初めて成り立つ。
それが侵され、侵した者がのうのうとしているようでは、その町はいずれ死ぬだろう。

同じようなシチュエーションが『ゴッドファーザー』でもあった。
マーロン・ブランド扮するマフィアの大親分が、ある映画監督を脅すというシーン。

どのように脅したかというと、撮影現場に乗り込んでロケをめちゃくちゃに…なんてヤボなことはせず、映画監督のベッドに、とんでもないモノを忍ばせておいたのだ。
これで映画監督は一発で参っちゃった。
どうせ嫌がらせをするなら、このくらい手の込んだことをやってほしい。

『浅草の灯』では、悪役がこれほどに不快感をまき散らしているぶん、主役の上原謙がさぞかし引き立つかと言うと、これまたちょっと微妙。

上原謙扮する山上が大先輩である摩利江(杉村春子)に向かって、
「役者をやめなさい」
「若い子には叶いません」
「若い力が分からないのか」
「謝りなさい」
と言うのは暴言だろう。

これを目上の人間に向かって平然と言える山上に、さすがに共感できない。
山上が尊敬している先生の、仮にも奥さんに対してこの態度は…これはもう人としてアウトではないかと。

他にも香取(笠智衆)が、最初から踏み倒すつもりで前借りするとか、どうもこの原作者の価値観とは相容れないところが多かった。

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by カエレバ


監督: 島津保次郎
原作: 浜本浩
脚本: 池田忠雄
撮影: 生方敏夫
編集: 吉村公三郎

配役
山上七郎 ... 上原謙
小杉麗子 ... 高峰三枝子
ポカ長・神田長次郎 ... 夏川大二郎
佐々木紅光 ... 西村青児
お竜 ... 坪内美子
吉野紅子 ... 藤原か弥子
飛鳥井純 ... 徳大寺伸
松島摩利枝 ... 杉村春子
大平軍治 ... 河村黎吉
呉子 ... 岡村文子
藤井寛平 ... 斎藤達雄
半田耕平 ... 武田秀郎
香取真一 ... 笠智衆
仙吉 ... 磯野秋雄
福松 ... 赤城正太郎
太公 ... 日守新一
仁村 ... 近衛敏明
荒川監督 ... 山内光
桜木 ... 伊東光一
香具師 ... 小林十九二
カルメンの踊り子 ... 大塚君代
〃 ... 東山光子
〃 ... 森川まさみ
〃 ... 八雲恵美子
〃 ... 小牧和子
奥役 ... 河原侃二