2話目は半七19歳、初手柄の巻。
さっそくあらすじ紹介いきます。

(ネタバレしています!)

老舗の小間物問屋「菊村」の一人娘、お菊の姿が消えた。
お菊と恋仲の若い番頭・清次郎が青い顔をして町中を探し回る。
そこへ声をかけたのがきっけかで、半七は事件と関わることになる。

清次郎とお菊は人目を忍び、ときどき茶屋で逢い引きをしていた。
その取り持ち役をさせられているのは女中のお竹。

逢い引きが終わる頃、お竹が茶屋へ戻ってみると、二人は既にいなかった。
店の人の話では、清次郎が最初に出て、ほどなくしてお菊が出ていったという。

その日の夕方、不思議なことが起こった。
いったん帰ってきたお菊が、すぐまたいなくなったというのである。

女中のお竹はお菊の姿をちらと見ただけだが、お菊がずんずん家の奥へ入っていき、そのあとお菊の母親・お寅の「おや、お菊かえ」という声を聞いている。
そのすぐ後、お寅はお竹のところにやってきて「お菊はそこらに居ないか」と問う。
あっというまにお菊が居なくなったと言うのだ。

更におかしなことに、お菊が履いてきたと思われる下駄は残されていた。
その時のお菊のなりは、黄八丈の着物に籐色の頭巾だったという。

次の日の晩にもお菊は現われた。
そしてあろうことか、お寅を刺殺。
またもや忽然と姿を消したのである。

翌朝、半七が「菊村」に様子をうかがいに行ってみると、店の前は黒山の人だかり。
(半七は上からの辞令で捜査をしているわけではないので、事件当夜に連絡が来なかったのだろう…)

半七は、泣きじゃくるお竹から事情を聞く。

昨晩、ふたたびお菊が現われたのをお竹が知ったのは、お寅の「おや、お菊……」という突然の叫び声によってであった。
続いて、悲鳴。
女中たちが駆けつける。逃げていくお菊の後ろ姿が見えたが、大事はお寅さんのほう。
だがもはや虫の息。
「お菊が……お菊が……」が最後の言葉となった。
お菊のなりは、前日に現われたときと同じだったという。

わからないのはお菊の逃走経路である。
逃げるとしたら、庭を通って塀を乗り越えるしかないはずだが「菊村」の塀はかなり高い。
女がそうやすやすと乗り越えられるようものではない。
梯子を使った形跡もない。

庭を探索する半七は、隅に大きな石灯籠があるのを目にとめる。
燈籠はびっしりとコケに覆われている。

そのてっぺんのあたりに人のつま先の跡が微かに残っているのを発見する半七。
犯人は石灯籠を踏み台にして塀を跳び越えたのだ。
足跡の大きさからいって、少年か女性のものに違いない。

だがお菊には無理だろう、軽業師のようなマネは。
まてよ、軽業師…、ここで半七に天啓。

当時の江戸にも軽業師はそう多くない。
中でも評判のよろしくない小柳(こりゅう)という女をまず当たってみることにする。

小柳は両国の見世物小屋で曲芸を披露していた。
そこで半七は情夫である金次を訪ねる。

二人が住んでいる家を訪れると、金次は不在だった。
待つ間、ちらと家の中を覗いてみる。

するとお菊が来ていたという黄八丈の着物があるではないか。
しかも着物の袖は濡れていた。
殺人のときに付着した血を洗ったに違いない。

そこへ金次が帰ってくる。
半七が着物のことを告げると金次はあえなく陥落した。

二晩続けて「菊村」に現われたのはお菊ではなく、お菊の着物をまとった小柳だった。

小柳は「菊村」の客でもあったので、お菊と菊次郎の顔を知っていた。
二人が茶屋へしけこむのを偶然見かけて、かわいい顔してあの子わりとやるもんだね…と見逃してはくれず、鬼女と化す小柳。
あいつを食い物にしてやろう。

清次郎が茶屋を先に出て、お菊が一人になったところを見計らい、小柳がお菊に声をかける。
「たった今、清次郎さんが急病で倒れた」。

お菊は籠に乗せられる。行き着く先は金次と小柳の家。
小柳と金次はお菊を縛り上げ、すぐさま女衒に40両で売り飛ばしてしまった。

まだまだこれでは終わらない。
お菊からはぎ取った着物を着て、頭巾をかぶり「菊村」に乗り込み、強盗に入る。
金のありかは、お菊を拷問にかけて聞き出している。

1日目は勝手が分からずうまく行かず。
2日目は母親の抵抗を受け、殺してしまう。

情夫の金次は神妙にお縄についたぜ、と聞いた小柳。
観念して、半七に引かれて行く…と思いきや、橋の上にかかったとき、いきなり身を川面に投じたのである。

時は12月。
翌朝、凍り付いた小柳の水死体が上がった。
既に死人になり果てていた小柳であったが、その首はわざわざ胴体から切り離され、小塚ッ原に梟(か)けられたということだ。

_________

感想。。。

なんと恐ろしい女であることか。
ところがこの小柳、綺堂の筆にかかると憎めなくなってしまうのである。

たとえば、半七が小柳を確保しに来たときの描写はこうだ。
(このとき小柳は、情夫の金次がすでに自供したことを知らない。また半七の態度も任意同行を求める、という体である)
小柳の顔には暗い影が翳(さ)した。しかし案外おちついた態度で寂しく笑った。

この「寂しく笑った」にグッときてしまう。
ああ、この女はこの時点で死を覚悟していたのだなあと。
岡本綺堂という人の優しさをかいま見た思いがする。

また、お菊に化けた小柳に、店の者全員がだまされ、果ては母親までもが「お菊…」と呼ぶ、アンフェアすれすれの、読者をミスリードに導かんとする作者の筆致は実にスリリングだ。
これぞミステリの醍醐味!

あ、そうそう、最後にこれだけはお伝えしておかねば。
女衒に売り飛ばされたお菊のその後だが、最悪の事態となる前に無事に保護されたので、どうかご安心を。

(以下、文中よりの引用です)
「金次がそんなに恋しいか」
「あい」
「おめえのような女にも似合わねえな」
「察してください」
長い橋の中ほどまで来た頃には、河岸の家々には黄いろい灯のかげが疎らにきらめきはじめた。大川の水の上には鼠色の煙りが浮かび出して、遠い川下が水明かりで薄白いのも寒そうに見えた。橋番の小屋でも行燈に微かな蝋燭の灯を入れた。今夜の霜を予想するように、御船蔵の上を雁の群れが啼いて通った。

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