声優さんや、新人アナウンサーの研修によく登場するのが「ういろう売り」の口上。
滑舌を良くするトレーニングの教材として最適のようだ。

「ういろう売り」とは、むかし薬屋さんが客寄せのために面白おかしく効能を紹介したり、早口言葉を披露した啖呵売の口上のことで、歌舞伎の演目「外郎売」の中でも聴くことができる。
けっこう量があって、慣れた人が早口で喋っても3分くらいかかる。

脳の活性化にもいいかな〜なんて下心でもって、私もがんばって覚えた。
それで今日読んだ本の中に、たまたまこんな一節を見つけたのだが…。
「そこで、おじさんは考えた。昔話の綱(つな)や金時(きんとき)のように、頼光(らいこう)の枕もとに…」

(岡本綺堂『半七捕物帳』第一話「お文の魂」より引用)

「ライコウ? 聞いたことあるな…。ああ、ういろう売りだ! どのへんで出てきたっけ? えーと…」
ついつい半七捕物帳そっちのけで暗唱を始めてしまった。

ライコウさんが出てくるのは、口上の3分の2あたり。
「かの頼光のひざもとさらず。ふな、きんかん、しいたけ、さだめて…」というところ。

あれ? 「ふな、きんかん」?
“半七”にはなんと書いてあったっけ?
「つな (や) きんとき」

「ふな、きんかん」と
「つな、きんとき」。

もしかして元々は「つな、きんとき」だったのではないの?

というわけでググってみると、ライコウというのは人の名前で、源頼光のことだった。
家臣には猛者がそろっており、頼光四天王(渡辺綱、坂田金時、卜部季武、碓井貞光)が有名だという。

ここで出てきました、渡部「綱」と坂田「金時」。
「頼光」につながった。ドキドキ。
というわけで、新説。

もともとの口上は頼光四天王から取ったもので、
「(渡部)つな、(坂田)きんとき、(卜部)すえたけ、(碓井)さだみつ」
だった。
これがいつのまにか身の回りにあるものに置き換えられた。

「つな、きんとき、すえたけ、さだみつ」
↓ ↓ ↓
「ふな、きんかん、しいたけ、さだめて」

漢字にすると、

「綱、金時、季武、貞光」
↓ ↓ ↓
「鮒、金柑、椎茸、定めて」

と推測するのでありまする。

それにしても分からないのは、当時の人はみな原典を知っていて、その上で言葉あそびをしていたのだろうかということ。

それともやっぱり虎の巻をどこかで書き間違えたか、あるいは口伝されていくうちに、伝言ゲームよろしく別物に変貌していったのか。

今となってはナゾだが、私は後者の説が有力と思う。
「ふな、きんかん、しいたけ、さだめて」では、言葉あそびになっていないし、そもそも意味が通じないからだ。

ちなみにこのあとは、
「ごだんな、そばきり、そうめん、うどんな、ぐどんな、こしはっち」
と続く。ますます意味不明なりけり。

ういろう売りの口上の目的は、道行く人を呼び止めることにあるわけだから、面白ければ面白いほどいい。
個人の裁量でどんどん変えていったろうし、亜流もたくさん生まれたはずだ。

改変は今も自由に行なわれていて、たとえば歌舞伎の市川團十郎は、

「ばちばち、ぐゎらぐゎら」

「ばちばち、くわばらくわばら」
としたり、それから

「おやわら、ぎゃあという」

「おやわらに、やあという」
に変えたりした。いや、こちらが本家という可能性も充分にあるなあ。

これは2016年8月現在、YouTubeで確認できる。



アナウンサー、声優さんに限らず、エンタメ系を目指している人にとって、外郎売りの暗唱は必修科目だろう。
公の場で披露する際には、わたくしめのバージョンもご一考を(笑)。

外郎売りの全文はウィキペディアに載っています。

外郎売 - Wikipedia

下の動画の方は、滑舌も速さも素晴らしい!



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