「半七捕物帳」を称える声を、最近よく耳にする。
名だたる作家の方々が絶賛している。
渡部昇一、宮部みゆき、北村薫、都筑道夫、松本清張、森村誠一、山田風太郎、皆川博子、戸板康二…。

ホントかなあ。お爺さんの昔語りっていう体裁の時代小説がそんなに面白いの?
まあとにかく読んでみましょう。

あらすじ(完全にネタバレしています!)

お道という若妻が娘のお春をつれて、兄の彦太郎に泣きついてきた。
夫の小幡伊織と別れたいというのだ。

7日前、お道の枕元にびしょ濡れの女が座っていた。
お春も「ふみが来た、ふみが来た」と泣き叫ぶ。
この夢かうつつか分からない出来事が四晩続いた。
もうあの家にはいられないという。

兄の松太郎は、お道の夫・小幡伊織に相談に行く。
伊織は全く心当たりがないという。
4年前、お道が嫁いでくる前に、幽霊騒ぎの類はただの一度もなかった。
それに嫁いでから4年経った今頃になって幽霊騒ぎというのも合点がいかぬと。

それでも伊織は念のために、屋敷の池をさらわせ、井戸の底まで調べさせた。
異常はなかった。

ここで「Kのおじさん」登場。(時代小説に『K』というアルファベットが出てくるのが新鮮!)
むかし、小幡家に奉公していた女中のセンが怪しいとにらんだKのおじさんは、女中を斡旋する請宿(うけやど)まで出向き、必死になって「おふみ」の文字を探すが、ない。

そこへ通りかかったのが目明かしの半七親分。
Kのおじさんは半七に事の次第を説明する。

話を聞いた半七、もうそれだけで目星が付いた様子。
出入りの貸本屋の名と、寺の名を聞く。
いきなり貸本屋とか、寺とか、まったく次元のちがうストーリーが半七の脳内で組み立てられているらしい。

翌日、貸本屋を覗くKのおじさんと半七。
以前、小幡家に貸し出した草双紙の中に、お道が表現するのと全く同じ、びしょ濡れの姿で枕元に佇む女の幽霊の絵があった。
これをお道と娘のお春が見たのに違いない。
しかし寺というのは?

寺へ赴いた二人、坊主に「お道母娘に憑く悪霊の加持祈祷をたまわりたい」。
するとなぜか坊主は恐縮しきって、二人を料理と酒でもてなし、帰りには車代と称して金まで差し出した。
もちろん半七は受け取らず。
Kのおじさんはわけのわからぬままに酔っぱらって良い心持ち。

真相は以下の通りだった───。

数ヶ月前から、坊主はお道を見かけるたびに「旦那と別れないと不幸が訪れる」と脅していた。
心穏やかならぬところに、さらに幽霊の草双紙を母娘いっしょに見てしまったものだから、その晩から娘のお春が「ふみが来た」とうなされるようになった。

これが4日間続き、坊主の予言が当たった、と考えたお道は兄の元へ走り、離縁を訴えた。
つまりお道もお春も実際に幽霊を見たわけではなかった。
小幡家の安泰を願っての、お道の狂言だったのだ。

そのころにはもう小幡家の幽霊騒ぎは、近隣の耳目を集めるまでに大きくなっていた。
ここで半七の提案で、形ばかりのお祓いを(もちろん別の寺にお願いして)行ない、すべては元のさやに収まった。

半七がなぜ話を聞いただけで解決できたのかは、以下の2点による。

1.草双紙を半七も見たことがあり、お道の幽霊の元ネタはアレに違いないとピンときた

2.色情坊主の悪行は半七たちの間ですでに有名で、前科もあった

坊主は間もなく、別件でお縄になったという。


感想。。。

これはミステリとしては単純だと思うが、語り口がなぜか複雑。
どういうふうに複雑化というとこんな感じ。

12歳の「わたし」は叔父さんから、むかし「おふみの一件」という不思議な事件があったことを聞く。
でも叔父さんは話してくれない。
どうやら「Kのおじさん」という人が一枚噛んでいるようだ。

14歳になった「わたし」はKのおじさんの家によく遊びに行くようになっていた。「おふみの一件」はすでに忘れている。
ある雨の日、Kのおじさんは「わたし」に「いつかお前が聞きたがっていたおふみの話をしてやろう」という。

…という前置きがあって、ようやく本題に入るのだけれど、まだひとつ仕掛けが隠されている。

話の途中に、こんな一節がある。

〜その中に唯一人、すこぶる無遠慮な男があった。それが即ち小幡の屋敷の近所に住んでいるKのおじさんで、〜

ええええ!? 今まで語っていたの、Kのおじさんじゃなくて「わたし」だったの!?
14歳なのにやけに語りが上手いね!

と思ったら、何とこの話は、14歳のときに聞いた話を、10年後の、つまり24歳になった「わたし」が語っている、という体だったのだ。

この無意味なややこしさはいったい何?
それとも意味があるんだろうか。
というわけで、次の話からは平常運転になるようだ。いや、読んでいないのでどれが“平常”なのかまだ分からないけれど、たぶん。

いや、でも素晴らしかった。できれば全話レビューしたいと思っているが、さてどうなりますか。

最後に気に入った一節を引用させていただいて終えたいと思います。
読んでくださりありがとうございます。

(以下、引用)
火の見櫓の上には鳶が眠ったように止まっていた。少し汗ばんでいる馬を急がせてゆく、遠乗りらしい若侍の陣笠のひさしにも、もう夏らしい光りがきらきらと光っていた。


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