都心のオフィスで颯爽と働く千葉早智子が格好良い。
ネクタイ姿も決まっている。
恋人の精二(大川平八郎)との軽妙なやり取りが、この映画をほのぼのとさせている。

あらすじ
(完全ネタバレしています)

君子(千葉早智子)の父親は、妾のところに行ったまま、もう10年にもなる。
砂金探しを続けて、山っ気の抜けない人だが、家への仕送りは毎月している。
(実は、仕送りをしているのは父親ではないのだが、それが明らかになるのはだいぶ後のこと)

母親の悦子(伊藤智子)は俳句に凝っており、夫のいないわびしさを歌ったりしているものの、独り身の自由を満喫しているふうでもある。

今日も知り合いから仲人を頼まれて、夫がいないにも関わらず、結婚式用の和服を注文したりしている。

ある日、君子は街で父親の俊作(丸山定夫)を見かける。
君子はその夜、御馳走を作って父親を待つが、父は姿を見せなかった。

君子は父を訪ねる決心をする。
田舎で暮らす父の生活は予想に反して質素だった。
妾のお雪(英百合子)は理髪師をし、連れ子の静子(堀越節子)は裁縫をして、生活を支えている。
もう一人の連れ子・堅一(伊藤薫)は、俊作を実の父親と信じて疑っていない。

そこで君子は、毎月仕送りをしていたのはお雪と静子で、俊作には内緒だったことを知る。

何としても父親を連れ戻そうと意気込んでやってきた君子だったが、逆にお雪たちに同情を寄せる。
また、父にとってもこちらの家族と暮らすほうが断然幸せに思えた。

ただ、仲人のことがあるので君子と俊作は一度東京に戻る。
だがもはや俊作と正妻の悦子のヨリは戻る気配さえもなかった。

君子は父親をお雪たちの元へ送り出す。
母親の悦子もとめることはしなかった。
君子は涙を浮かべながら「お母さんの負けだわ」とつぶやくのだった。(完)

感想。。。

あらすじで触れられなかったが、叔父役として藤原釜足が出ている。

君子に無理やり義太夫を聴かせるところがおかしい。
この叔父のセリフで一つわからないところがあった。

「あのお雪に鼻毛を読まれて〜」

…鼻毛を読まれる?

調べてみたら、何とそういう諺があった。
女が、自分にほれている男を思うように操る。

鼻毛を読む(ハナゲヲヨム)とは - コトバンク

この叔父のセリフから分かるように、東京の本家族のほうは、父親が妾にいいようにされていると思い込んでいた。
ところが事実は全く逆で…という話でした。

主人公の君子は20代半ばといったところか。
第二家族(?)の娘・静子も同世代のようだ。

静子と俊作は家族になって10年、まだまだ遠慮がある話しぶり。

ところが10年ぶりに父親に会った娘は全く遠慮がない。ズケズケものを言う。
その斬り込みっぷりが痛快であり、また物哀しくもある。

この後も、君子は自身の結婚式などで、何度か父親と会ったろうが、あの「娘だけが立ち入りを許されるスペース」には、静子をおもんぱかり、二度と立ち入らなかったような気がする。

自分のことよりも人の幸せを優先してしまう君子は、きっと精二と幸せな人生を歩んだはずだ。

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「妻よ薔薇のやうに(つまよばらのように)」

第12回(1935年度)キネマ旬報ベスト・テン第1位

原作: 中野実
監督・脚本: 成瀬巳喜男
音楽: 伊藤昇
撮影: 鈴木博
美術: 久保一雄
録音: 杉井幸一
編集: 岩下広一

キャスト

千葉早智子: 山本君子
丸山定夫: 山本俊作
英百合子: お雪
伊藤智子: 山本悦子
堀越節子: お雪の娘・静子
藤原釜足: 悦子の兄・新吾
細川ちか子: 新吾の妻
大川平八郎: 君子の恋人・精二
伊藤薫: お雪の息子・堅一