昨日3月14日はフレッド・ジンネマン監督の命日。
一日遅れとなってしまったが、アカデミー賞を6部門も獲った名作『わが命つきるまで』をレビューしたい。

フレッド・ジンネマン(Fred Zinnemann, 1907年4月29日 - 1997年3月14日)は、アメリカ合衆国の映画監督。※ Wikipediaより引用

あらすじ(完全ネタバレしています)

英国王ヘンリー八世(ロバート・ショウ)は何が何でも、侍女のアン(バネッサ・レッドグレイブ)と結婚したい。
それにはまず何よりも現王妃と離婚しなければ。

離婚するにはローマ法王の認可が要るのだけれど、法王は離婚(正確に言うと、ヘンリー八世は婚姻の無効を訴えた)を認めてくれない。
そこでヘンリー八世は強硬手段に出る。
ローマ教皇と絶縁し、教会機構を英国内に作り、自分がそのトップに着いたのだ。

これに異議を唱えたのが、本作の主人公トマス・モア(ポール・スコフィールド)。
いや、正しくいうと異議は唱えていない。
トマス・モアがやったことは、大法官という任務を返上し、ヘンリー八世を教会長とする同意書への署名を拒否した事。
これは端から見ればヘンリー八世への抗議行動以外の何物でもない。
まあ実際に抗議なのだけれど、避難めいたことは一言も発していないところがミソ。

はっきりそれを口に出してしまうと反逆罪になってしまう。
そこはもう水も漏らさぬ用意周到さを持って証拠や記録をつねに残しながら、発言・行動する。

でも教義のとおりに行動しているのはトマス・モアだけ。
他は全員、国王になびいている。
根気よくモアを説得し続けていた友人たちも一人去り、二人去り。
結局モアは投獄されてしまう。

モアとしては裁判に持ち込みさえすれば、論破できると思っていたのかも知れない。
少なくとも、公の場で持論を開陳できる裁判に期するものはあっただろう。
たしかにクライマックスの裁判シーンでは、鋭い弁舌が冴え渡る。

がしかし、金と権力のためならどんなこともする人間もいる。
リチャード・リッチ裁判官(ジョン・ハート)の厚顔無恥きわまりない偽証により、モアは斬首されてしまうのだった。

ところでこのリチャードという人、映画の最初のほうでは無職だった。
トマス・モアに職の斡旋を頼んだりしたのだが、
「法の世界は汚いからやめたほうが良い」
と諭される。
だがそんな忠告を聞くリチャードじゃなかった。
モアと敵対する裁判官に雇ってもらい、どんどん出世していくのだ。
彼には法曹界の濁った水が性に合っていたみたい。

リチャードを観ていると何となく死亡フラグが立っているように思えたのだが、なんと最後まで生き残った。
それどころか登場人物の中でいちばん出世し、大往生したようだ。
死後は地獄行きかも知れないけれど、この世の春を謳歌したとは言える。
現実はこんなものなのかも知れない。

トマス・モアの主張の骨子は、
「ローマ教会を無視して、なにがカトリックか」
というものだと理解している。

確かに言っていることは正しい。
教義を信奉するモアが、ヘンリー八世の所業を許せるわけがない。
権力何するものぞという姿勢も見上げたものだとも思う。

だがモアの行動は、国王に追従した者たちへの痛烈な批判に、図らずもなっている。
彼らがモアをそのままにしておくはずはなかった。

彼らは裁判制度を悪用して、モアを有罪にする。
それ自体が、法への侮辱であり全否定にもなっているのだが、そんなことは百も承知だったろう。
とにかくモアほど厳密に法を、そして教義を守られては困るのだ。

死刑を宣告されたとき、モアは彼らを憐れんだろうか。
それとも正義が行使されない法廷に絶望しただろうか…。

モアは徹底的に法を研究し、聖書を精読してきたことだろう。
他の者はそんなことよりも、保身や出世などの世渡りに東奔西走していた。
今までなるべく触れないようにしてきた両者の違いが、ヘンリー八世の強行な施政をきっかけに表面化し、不幸な結果を招いてしまった。

首を懸けてまで主張を貫き通したモアだったが、その発端が国王の色事であることを思うとちょっと複雑だ。
まーた病気が始まっちゃったよ、くらいにやり過ごすことはできなかったのだろうか。
などと、キリスト教に縁遠い極東の島国に住む者としては、思わないでもない。

ちなみに新女王となったアン・ブーリンだけれど、女児(後のエリザベス一世)を出産した後、姦通などの罪を着せられ、死刑台に送られてしまう。
そのあたりの経緯は、エルンスト・ルビッチ監督の『デセプション』で描かれているので、機会があればぜひ。

『デセプション』(1920・ドイツ)

br_banner_kokuban

わが命つきるとも [DVD]
by カエレバ


A Man for All Seasons (Wikipediaより一部転載)

キャスト
トマス・モア - ポール・スコフィールド
アリス・モア - ウェンディ・ヒラー
クロムウェル - レオ・マッカーン
ヘンリー8世 - ロバート・ショウ
ウルジー枢機卿 - オーソン・ウェルズ
マーガレット・モア - スザンナ・ヨーク
ノーフォーク公爵 - ナイジェル・ダベンポート
リチャード・リッチ - ジョン・ハート
ウィリアム・ローパー - コリン・レッドグレイブ
マシュー - コリン・ブレイクリー
トマス・クランマー大僧正 - シリル・ラックハム
大法官 - ジャック・グウィリム
アン・ブーリン - バネッサ・レッドグレイブ

製作総指揮:ウィリアム・N・グラフ
製作:フレッド・ジンネマン
監督:フレッド・ジンネマン
脚本:ロバート・ボルト
撮影:デッド・ムーア
音楽:ジョルジュ・ドルリュー