短篇3本と、書き下ろしの中編1本からなる、待ってました! の本格ミステリです。
さっそくあらすじ紹介行きます。
(完全ネタバレしています)

「それぞれの仮面」

山岸尚美はホテル・コルテシア東京の有能なフロントクローク。
偶然、大学時代の元カレだった宮原が泊まりにやってきた。
宮原は現在、野球選手からタレントに転身した大山のマネージャーをしているという。
今日は大山らとここに泊まり、明日海外へ立つという。

深夜、その宮原から尚美に切迫した声で電話が。
1105室に来てくれと言う。
宮原に割り当てたのは別の部屋で、1105室には西村美枝子という客が泊まっているはずだけれど……と思いながらも行ってみる。

部屋にいたのは宮原ひとり。
テーブルの上には口紅の付いたシャンパングラス。
サワークリームの残ったオードブルの皿。
女性が好みそうな白いフィルターのタバコの吸い殻が数本。
宮原はタバコを吸わない。

宮原の話はこうだった。
彼は結婚しており、西村美枝子とは不倫の仲。
その美枝子が突然ヒステリーを起こし、部屋を飛び出ていった。
自殺願望があり、事件にならないか心配だ。
ホテルや警察には知らせずに何とかしてくれ、というのが宮原の頼みだった。

しぶしぶ引き受ける尚美。
部屋を出る直前、尚美はピアスが片方落ちているのを見つけ、拾う。

尚美は同僚に聞いてみるが、西村美枝子が外出するのを見た者はいなかった。

その日の夜、当日予約でスイートに泊まっている男性客が、高級な料理と酒をばんばん注文している、と仲間内で話題になっていた。

注文の内容を聞いた尚美はある仮説を立てる。
それを確かめるため、尚美はスイートへの料理運びを買って出る。
部屋の中を見て、尚美は自分の仮説が正しいことを知った…。

真相は以下の通りだった。
西村美枝子と不倫していたのは宮原ではなくタレントの大山だった。
なぜ尚美はそれを見抜けたか。

シャンパングラスには口紅が付いているのに、タバコの吸い殻には付いていなかった。

宮原はタバコを吸わない。
ならば他の男性がいて、タバコを吸ったと言うことになる。
そして宮原がウソをついてまで庇わなければならない男性と言ったら、大山しかいない。

西村美枝子が出ていったというのは本当で、困った大山が宮原を呼び、宮原が事後処理を任されたというわけだ。

では西村美枝子はどこへ消えたのか。

彼女はホテルから出ていなかった。
おそらくスイートにいる、と推理した尚美はそれを確かめるために料理運びを買って出たのである。
あんのじょう西村美枝子は男性客と共にいた。

なぜ尚美は、西村美枝子はスイートにいると考えたのか。

それはサワークリームにあった。
スイートからの注文は「キャビアにはサワークリームをかけるな」というものだった。
そんな食べ方をする人間は珍しい。
そこで1105室でサワークリームを残した客と、スイートにいる客は同一人物ではないかと推理したのだった。

スイートルームに泊まった男性客というのはIT長者で、西村美枝子とは結婚を前提として付き合っている。

ところが最近、彼女には他に男がいるのではないかと疑っており、今日も尾行してこのホテルを突き止め、それで当日予約を入れたのだった。

「同じホテルにいるから来てくれ」と、いきなり電話で言われた美枝子は、ヒステリーを装って大山のいた部屋を飛び出し、スイートに直行したというわけ。

翌朝、西村美枝子がチェックアウトするとき、尚美はピアスを渡す。
「1105室ではなくスイートルームの前で拾いました」とウソをついて。
このとどめの一刺しで、西村美枝子は陥落、すべてを尚美に白状した。

「女性の好みそうなタバコ」という表現にミスリードされました。
元野球選手がそんな細いタバコを吸う姿、なかなか想像できませんよね。
おそらく美枝子のタバコをもらったのでしょう。
元カレが元カノにウソをつく。大山のファンの夢を壊さないためとはいえ、切ないものがあります。

「ルーキー登場」

深夜、ジョギング中の男性が刺殺される。
殺されたのは田所という飲食店経営者。

現場のそばの工事現場に新しい吸い殻が5本落ちていた。
犯人はそこで待ち伏せしたらしい。

刑事の新田は現場の状況から、犯人は自転車を使用したのではないかと考える。
となると吸い殻はカムフラージュということになる。

ではどこで吸い殻を手に入れたのか。
喫煙席のあるセルフ式では。
そう当たりをつけて調べていくと、ある店の防犯カメラに、吸い殻を回収している不審な男が写っていた。

男は、被害者の妻が開いている料理教室の生徒で、横森といった。

彼の衣服から被害者の結婚が検出され、横森は逮捕された。

横森の供述によると、被害者の妻・美千代は夫からDVを受けていたという。
「美千代さんの腕にはひどいアザもあった。自分は奥さんを助けるために殺ったのだ」
と横森は言うのだが、美千代の通うスイミングクラブで聞き込みをしても、そんなアザを見た者はいなかった。

思い込みの激しい横森を実千代がうまく誘導したのだ───そう確信するが、決定的な証拠がなく、歯噛みをするしかない新田だった。

「ルーキー登場」のルーキーとはもちろん新田浩介のこと。
帰国子女で、大学の法科を出ていて、バリバリの幹部候補、という設定ですが、一発で好きになりました。
加賀恭一郎のように、ぜひシリーズ化してほしいですね。

「仮面と覆面」

尚美の勤めるホテルに、見るからにオタクの5人組がやってきた。
謎の覆面美人作家「タチバナサクラ」が今晩このホテルに泊まるという情報をどこからか入手してきたらしい。

チェックインを済ませた5人はさっそくフォーメーションを組んで、入り口を見張る。

確かにその日は「一ツ橋出版 望月和郎」の予約で、「玉村薫」という人物が数日間泊まることになっている。

この玉村という人がタチバナサクラかも知れないと思った尚美は、一ツ橋出版の望月に電話をし、状況を説明する。

すると望月から返ってきた答えは意外なものだった。
タチバナサクラの正体は中年の男性だというのだ。

懸賞小説に応募するとき、若い女性と偽ったほうが通りやすくなるのではと思い、嘘のプロフィールを書いたら大賞を獲ってしまった。
もはや後の祭りで、今もそのプロフィールで押し通しているのだという。

そんなこととはつゆ知らない哀れな5人組が見張りを続けている中「ペンネーム = タチバナサクラ」「本名 = 玉村薫」は堂々とチェックインする。

だがそうなればなったで、やはり「タチバナサクラ」の秘密が知られては困るので、尚美は気を抜けない。

さてこれから数日間、缶詰にされる玉村薫先生なのだが、ちょくちょくホテルを抜け出す。
編集の望月はホテルの部屋に電話をして、ちゃんと玉村がいるのを確認しているのに、である。

玉村にはまだ秘密にしていることがあった。
「タチバナサクラ」は彼の実の娘だったのである。
まだ高校生である娘を守る意味で、父親の玉村薫は自分が書いたということにしたのだった。

ホテルの部屋では娘が執筆していた。
ではなぜ望月からの電話に、ホテルにいない父親が出ることが出来たのだろう。

ホテルにかかってきた電話はまずオペレーターが取る。
次にオペレーターが部屋の客に電話をし、つないでも良いかの確認を取る。
そこで客が了承して初めて当事者同士が直接話すことができる、というシステムになっている。

娘は、編集者から電話が掛かってきたら、自分のケータイから父親に電話をし、ホテルの電話とケータイを逆さまにくっつけて編集と父親を会話をさせていたのだった。

玉村薫に高校生の娘がいることは最初のほうで明かされています。でも小説の内容が「エロティシズムに溢れた」ものだと説明されているので、まさか女子高生が書いていたとは思いも寄りませんでした。
「マスカレード・イブ」

大学構内で岡島教授が刺殺される。
発見されたのは10月5日の朝。
3日の18時までは生存が確認されている。
4日は欠勤と思われていた。研究室の隣ですでに死体と化していたわけだが。

怪しい人物が浮かび上がる。
同大学の南原教授。
岡島が死んだことにより、自分の特許が企業との共同開発に使えるようになり、巨万の富が入る可能性がある。

だが南原には完璧なアリバイがあった。
3日の夜から5日まで京都出張だったのだ。
たしかに4日のアリバイは完璧そうだ。
だが3日の夜となるととたんにあやふやになる。
そもそも岡島が殺されたのは4日で、3日のはずがないと思い込んでいた様子なのが気にかかる。

ただ南原が犯人だとすると、死体発見を遅らせようとした意味が分からない。
犯人はわざわざ死体を移動させ、車も目に付かないところに移動させているのだ。

検視の結果が出た。
死亡推定時刻は3日の20時から23時の間。
南原が3日の夜、東京に戻って殺人を犯すのは可能だ。

警察の追求に、
「3日の夜は京都クイーンホテルに泊まった」
といったんは白状する南原。
たしかにチェックインはしていたが、部屋を使った形跡がない。

追い詰められた南原、
「じつはホテル・コルテシア大阪で人妻と不倫をしていた」
と自供する。

ここで新キャラ・穂積理沙(セーラームーン大好き)登場。
先輩刑事の新田は理沙がじゃまくさいので大阪に出張にやる。

理沙はホテルの人間たちに南原教授の写真を見せて回る。
3日の夜といえば、ちょうど山岸尚美がフロントに立っていた時間だ。
1話と3話にも出てきたあの尚美である。
今は新人ホテルマンの教育係として東京から大阪に派遣されているのだ。

ホスピタリティの高い尚美がそうそう客の秘密を警察に明かすわけがない。
だが、理沙があまりにもバカすぎるのでかえって同情心がわきおこり、ヒントを与えてしまう。
「3日には見ませんでしたが、ずっと以前に利用されたことはあります」と。
帰りかけた理沙の足がようやく止まる。

その後もけなげに聞き込みを続ける理沙にほだされて、尚美は自身の推理を披露する。
それは以下のようなものだった。

事件の起こる3カ月ほど前、ある女性と南原はホテルのバーで知り合い、意気投合した。
その女性は10月3日にも泊まった。
だから南原がこっそり女性に会いに、このホテルにやってきた可能性はある、と。

2度の宿泊記録から女性の身元は割れた。
畑山玲子。美容サロン経営。10歳年上の夫あり。

さっそく新田と理沙は会いに行く。
南原の写真を見せるが、玲子は無反応。

だが南原のほうは玲子の写真に激しく反応。
しかしそれでもシラを切り続ける南原である。

殺人の嫌疑がかかっているというのに、不倫の人妻をかばっている場合ではないだろう。これは何かある───と考える新田に天啓が降りる。

交換殺人。
南原と玲子、それぞれに殺したい相手がいたとする。
南原の場合は岡島教授だった。
ならば玲子の過去を調べれば、何かが出てくるのでは。

出てきた。
8月2日にホステスが殺された事件がそれだ。
被害者のアパートから一通の手紙が見つかる。
その手紙の差出人は玲子の父親だった。
殺されたホステスは、彼の隠し子だという内容が記されてあった。

玲子の父親は資産家である。
もしホステスが手紙とDNA鑑定を証拠に名乗り出れば、父の遺産のかなりの部分が手に入るのはほぼ確実だ。

ホステスは玲子に会いにいったのだろう。
そしてその後、何者かに殺された。

玲子の美容サロン経営は決してうまく行っていない。
動機としては十分だ。
当時、警察の調べは玲子にも及んだが、彼女は海外旅行に行っており、完璧なアリバイの前に警察はなす術がなかった。

だが、交換殺人だとすると…。
ホステスの爪に残されていた犯人のDNAは南原のそれと一致した。
南原、ついに陥落。

7月に玲子と南原は出会い、8月に南原がまず決行し、10月に玲子が約束を果たした。
お互い証書を取り交わしているので、翻意は許されない。

これで全貌はほぼ明らかになった。
しかしまだ謎が残っている。
玲子はなぜ南原と取り決めた4日ではなく3日に決行したのか。

それは玲子の裏切りによるものだった。
南原は、4日のアリバイは完璧に仕立てあげているだろう。
そうなると警察は当然共犯のセンを探る。
それだと自分にまで捜査の手が及んでくる可能性がある。
だから3日に決行した。そして南原を窮地に陥れた。

死体を移動させ、発見を遅らせたのは、裏切りが南原にバレないようにするためだったのだ。

事件は解決した。
尚美と新田、いまだ出会わぬ名コンビ、ここに誕生。

「バカ」なんて書いちゃいましたけれど、理沙がとてもいいです。
読んでいて元気と、涙が出ます。
それから尚美も新田も職業意識がめちゃめちゃ高くて格好いいですね。
新田の先輩の本宮も、極道顔でべらんめえ調ですが、思いやりと優しさがにじみ出ていて泣かせます。
さすがは東野圭吾。参りました!

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<東野圭吾作品 - 極私的星取り表>
★★★★★ 「容疑者Xの献身」
★★★★★ 「真夏の方程式
★★★★★ 「白夜行
★★★★★ 「卒業
★★★★★ 「眠りの森
★★★★☆ 「マスカレード・イブ
★★★★☆ 「人魚の眠る家
★★★★☆ 「どちらかが彼女を殺した
★★★★☆ 「新参者
★★★☆☆ 「マスカレード・ホテル
★★★☆☆ 「片想い
★★★☆☆ 「赤い指
★★★☆☆ 「嘘をもうひとつだけ
★★★☆☆ 「私が彼を殺した
★★★☆☆ 「悪意
★★☆☆☆ 「ラプラスの魔女
★★☆☆☆ 「虚ろな十字架
★★☆☆☆ 「麒麟の翼
★★☆☆☆ 「宿命
★★☆☆☆ 「名探偵の掟
★★☆☆☆ 「カッコウの卵は誰のもの
★☆☆☆☆ 「夜明けの街で
★☆☆☆☆ 「パラドックス13
★☆☆☆☆ 「ナミヤ雑貨店の奇蹟
★☆☆☆☆ 「危険なビーナス

番外編 :
映画『白夜行』 | 東野圭吾ワールドを完璧に再現。