エルンスト・ルビッチ監督がハリウッドに招かれる前の、ドイツへの置き土産的作品。
『パッション』と並んで語られることが多い。
時代が時代だけに、もちろんどちらもサイレント映画。
『パッション』は現在絶版のようだ。残念…。

本作『デセプション』のあらすじを簡単に紹介すると、

(ネタバレあります! )



アン、国王に見初められる。
国王、強引に妻と別れる。
国中騒然となる中、国王はアンと結婚。
アン出産。(後のエリザベス一世)
男の子じゃなくてがっかりする国王。
国王、浮気の虫が騒ぎ出す。
侍女に手をつける国王。
アン、元カレとの不義をでっち上げられる。
元カレもアンも処刑される。。。

この話は史実に基づいているそう。
これをルビッチがどう料理したのかが気になるところ。
やはり男女の出会いの演出に、ただならぬものを感じる。

例えば「国王、アンを見初める」場面。

これを表現するのに、並の監督さんなら、
「あのおなご、気に入った。連れてまいれ」
で済ませるかも知れない。
が、ルビッチだとそうはならない───。

まず二人のファースト・コンタクト。
侍女のアンがドレスの裾をドアにはさんでしまい、身動きが取れなくなるという事態が発生。
面白いオモチャ発見! とばかりに駆け寄る国王。
これがきっかけとなり、アンは国王と初めて会話を交わす。
そしてセカンド・コンタクトへ。

貴族たちが野原で遊んでいる。
テニスボールみたいなのを、バドミントンのように、羽根突きのように…なんていうの? あの遊び、まあとにかく、大勢の人たちがそれぞれ二人ひと組となってボールを打ち合っている図を想像していただきたい。

侍女のアンも彼氏と楽しく遊んでいる。
打ったボールが大きくそれて国王の元へ。
とたんに目を輝かせて走り寄ってくる国王。
この人は若い女とみると、矢も楯もたまらず口説きたくなるようだ。

さっそくアンを相手にボールの打ちっこに興じる。
国王が打ったボールはあらぬ方向へ。
人の背丈ほどもある草むらに入っちゃった。

ボールを取りに行くアン。
続いて国王も。
さらにはそれを見ていたお付きの道化師も。
ここで点数稼ぎとばかりに、あらかじめ別のボールを用意しておき、しれっと差し出すつもりのようだ。
なかなか如才ない。

草むらの中のアンに国王は電光石火の早業でせまる。
そこへ、
「ボール、ありましたぁ!」
と、得意満面に顔を出す道化師。
もちろん怒鳴られる。(笑)

アン、国王から逃げ出す。
それを追う国王。
草むらから姿を現わす二人…。

野原にはギャラリーが大勢いて、一部始終を見ている。
草むらの中で何が行なわれたのか、彼らは想像をたくましくしたことだろう。

…といった具合。
男女が知り合うきっかけを作らせたら天下一品だ。
さらにルビッチはこの頃すでに、
「見せずに魅せる」手法をも獲得していたことが見て取れる。
(…上記の例は、『草むらの内側』を貴族たちに隠しても、観客には見せているので、あまり適確な例ではないけれど)
ハリウッドからお呼びがかかるのも当然といったところか。

それにしても国王のヘンリー八世、みんなが見ているのに良くやるよ、という感じ。
こんなことがいくつか重なるにつれ、アンはだんだん周りから孤立していき、結婚せざるを得ない状況に追い込まれる。

現実には余り評判のよくないアン・ブーリンという女性に、共感・理解を示したルビッチ。
彼独特のフェミニズムでもって、不運な生涯を送った彼女を描ききった。

結局アンは処刑された、のは上記の通り。
そのラストシーンがまた強烈だ。

処刑室に抱えられていくアン。
扉が開く。
その奥では、覆面をした処刑人が待ち受けている。
アンの首を切り落とすための大きなマサカリをたずさえて───。

実際に処刑が執行される場面はない。
だがむしろそのほうがインパクトが強い。

もうすぐ命が途絶えてしまう、その絶望に歪んだアンの表情と、
その後、真っ二つにされたであろう彼女の肉体。
ひとつの映像がひとつのイメージを喚起し、その両方が観た者の脳裏を駆けめぐる。

映画は終わっても、脳内上映は終わらない。
マサカリを持った処刑人は今もフィルムの中で、アンの首が差し出されるのを待ち続けている。

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※ 『デセプション』は2016年3月現在、日本語字幕もしくは日本語吹き替えがついた版は発売されていないようです。

下に紹介している商品は英語字幕版です。ご注意を!

LUBITSCH IN BERLIN: ANNA BOLEYN
by カエレバ


Deception / Anne Boleyn (映画.comより一部転載)

監督 エルンスト・ルビッチ
脚本 フレッド・オルビング、ハンス・クレリ
撮影 テオドール・スパルクール
美術 クルト・リヒター

キャスト
ヘンニ・ポルテン Anne Boleyn / Queen of England
エミール・ヤニングス King Henry VIII
アウド・エゲデ・ニッセン Jeanne Seymour
パウル・ハルトマン
フェルディナンド・フォン・アルテン


関連リンク : エルンスト・ルビッチ監督作品(いちおう年代順です)
★★☆☆☆ 『牡蠣の王女』(1919・ドイツ)

★★★★★ 『花嫁人形』(1919・ドイツ)

★★★☆☆ 『デセプション』(1920・ドイツ)

★★★★☆ 『結婚哲学』(1924・アメリカ)

★★☆☆☆ 『ウィンダミア夫人の扇』(1925・アメリカ)

★★☆☆☆ 『山の王者』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 『ラブ・パレード』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 上質な時間、『モンテカルロ』(1930・アメリカ)

★★★☆☆ 『陽気な中尉さん』(1931・アメリカ)

★★★★☆ 『私の殺した男』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『君とひととき』(1932・アメリカ)

★★☆☆☆ 『極楽特急』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『生活の設計』(1933・アメリカ)

★★★☆☆ 『メリー・ウィドウ』(1934・アメリカ)

★★★★☆ 『天使』(1937・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『青髭八人目の妻』(1938・アメリカ)

★★★★★ 『ニノチカ』(1939・アメリカ)

★★★★☆ 『街角 桃色の店』(1940・アメリカ)

★★☆☆☆ 『淑女超特急』(1941・アメリカ)

★★★★★ 『生きるべきか死ぬべきか』(1942・アメリカ)

★★★★☆ 『天国は待ってくれる』(1943・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『ロイヤル・スキャンダル』『クルニー・ブラウン』『あのアーミン毛皮の貴婦人』

<書籍>

「ルビッチ・タッチ」ハーマン・G・ワインバーグ(著),宮本高晴(訳)