箱根駅伝2連覇という偉業を達成した原晋監督(青山学院大学陸上競技部)が、先頃NHKラジオ「明日への言葉」に出演されていた。(2016.2.21)

番組タイトルは「めざせ!大学駅伝3冠」となっており、インタビュアーが3冠について水を向けると、もちろんそれは狙うが、今いちばんの関心は、4年後に迫った東京オリンピックにあるという。
というのは、今教えている学生たちがまさに代表候補の対象となるからだ。

原氏は続けて、学生陸上界に較べて実業団の指導体系は硬直化している、と歯に衣着せぬ発言。
この30年間ほとんど記録が伸びていないではないか、とも。
確かに仰るとおり。
それにしてもはっきり言う人だなあと興味がわき、本書を購入するに至った。

陸上界に実績のなかった原氏が、どのような経緯で就任することになったのかが、ここに詳しく書かれている。
青学側は新監督を選ぶとき、原氏ひとりにオファーしたのではなく、何人か候補を選び、関係者の前でプレゼンさせ、それから決めたのだそうだ。

原氏は当時、中国電力という超エリート企業で「伝説の営業マン」として名を馳せていた。
生涯安泰の超優良企業から嘱託職員という立場へ、それも3年で結果を出せなければお払い箱という厳しい境遇へ自ら身を投じた原氏。

まさに背水の陣、行く手に待ち受けるは茨の道。
たのむはこの身一つ、今までの経験で培ってきた「逆境のメソッド」を信じて突き進むのみ。

青学陸上部はじりじりと実績を重ねていく。
そしてついに就任11年目にして箱根駅伝初制覇、さらに連覇!を成し遂げたのはご存じの通り。

それにしても興味深いのは、弱小チームが最強に変身するのに10年を要するという事実。
大学生が選手でいられる期間は4年間なのだから、4年みっちりやるしかないのでは? と、ド素人の私は思うのだけれど、そんな簡単なものではないようだ。

原氏は本書の中で、
「もし何でもできるのであれば、相撲部屋の親方になって日本人横綱を育てたい」
と書いている。
これまた途方もないことを。

でももし実現したら盛り上がることまちがい無しだ。
それに原氏のことだから、きっと勝算はあるはず。

相撲協会さん、真剣に検討されてみてはどうでしょ?

(以下、引用)
同じあいさつでも、煮ても焼いても食えないのが「ちわっス」という体育会系のあいさつである。
「こんにちは」の後に「ス」が付いたスラングで、陸上競技でも大会の会場にいるとあちこちでこの「ちわっス」が飛び交っている。私は「ちわっス」とあいさつされるとこう言い返すのだ。
「おまえ、それっておかしくないか。社会人になってもそんなあいさつするの? 街中でいきなり『ちわっス』とか言ったらおかしいでしょう。会社で上司に『ちわっス。失礼します』と言うのかい。普通にやりなさい。普通に」

「ええか。出世するのは、金もうけのためではないのだよ。社会に貢献し、いい影響を及ぼすためだ。たとえば、飲料メーカーに入ったら、その飲料をどうやって世の中に広めていくか、そのパイオニアになっていかな、ダメだぞ。そのためにはいいポストに就かなダメだし、そのために出世するのだよ」

それから、最後に付け足しておきたいことがある。箱根駅伝に出場したのは10人だったが、青学陸上競技部の中・長距離部門には48人の選手がいる。つまり、38人は出場できなかったということだ。
このことはある意味で厳粛な事実だが、出場できなかった部員にはこう伝えたい。
「箱根駅伝に出ることは、人生のゴールではない。自分の能力を高めていくことが陸上競技の基本である。大学時代に努力したことは決して無駄にはならない」

若いときに、徹マン(徹夜マージャン)をしても翌日、平気で仕事をすることができたが、40歳を過ぎて徹マンなどした日には、1カ月ぐらい疲労が残ってしまう。つまり、若いほうが絶対にスタミナがあるはずなのだ。だとすれば、フルマラソンにももっと若い世代がチャレンジすべきではないだろうか。

監督就任後、最初のミーティングのとき、私は部員たちに1枚のA4用紙を配った。そこに書いたのは次の言葉だ。
「人間の能力に大きな差はない。あるとすれば、熱意の差だ」
そして、私は宣言した。
「オレはおまえたちを絶対に箱根駅伝に出場させる」


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