マドンナ = 栗原小巻

ゲスト = 川谷拓三

これは入魂の一作。
冒頭の夢シーンから気合い入りまくり。

日本人初の宇宙飛行士に大抜擢された寅さん。
宇宙服なのに雪駄を履いているという(笑)。
オシッコをちびったところで現実に引き戻される。

柴又では、タコ社長(太宰久雄)がテレビ出演という話題で持ちきり。
森本毅郎(カメオ出演)にうながされ、
「あけみ〜、帰ってきてくれえ〜!」
と涙ながらに訴える。

愛娘のあけみ(美保純)が家出してしまったのだ。
[とらや]一同は、顔の広い寅さん(渥美清)に助けを求める。

…前作あたりから、寅さん不在の場所でも彼を誉めるセリフがちらほら聞こえてくる。

これまでは、
「帰ってきてほしくない厄介者」
だったのが、ここにきて、
「人としての魅力がないこともなく、ときには頼りにならないこともないオジサン」
へと、立ち位置が上がりはじめているようだ。

テレビを見ていたあけみからの電話で、伊豆下田にいることまでは分かった。
さっそく出かける寅さん。
あっという間にあけみを発見。
むかしから寅さんっ子だったあけみは心底嬉しそう。
ふたりは式根島へ足を伸ばす。

ところであけみの夫・信吾がちょこっとだけ登場する。
どなたが演じているのか、いろいろと調べてみたが分からない。
おそらく本作のみの出演だったのだろう。

そのシーンというのは、博(前田吟)ファミリーが状況を伝えに、信吾たちの住むアパートを訪ねてくるというものだ。

塀越しに語りかける博に、信吾は目を合わせもせず洗濯物を取り込み続ける。
挨拶もせず、礼も言わず、かえってくるのは生返事だけ。
このシーンひとつで、あけみが家出をした理由がわかろうというものだ。

だが信吾の立場からしたらどうだろうか。

あけみの親戚連中は、いちいち首を突っ込んできて鬱陶しいことこの上ない。
余計な世話など焼かずに放っておいてほしい…、と思っているかも知れない。

そういう、人との距離感とか温度差といったものが本作のテーマであるような気がする。

このあと寅さんは式根島に居着いてしまうのだけれど、それを聞いた満男(吉岡秀隆)が、
「美人の先生でもいるんだよ、きっと」
と言ったときの博の怒り方がかなり激しい。

「生意気な口を利くんじゃない!」
なにもそこまで怒鳴らなくても、と思うほどに声を荒げるのである。

このとき満男は中学生。
そろそろ色気づいてくるお年頃だ。

もしかしたら博は、息子の著しい成長に日頃から距離感を計りかねていたのかも知れない。
そう思って見返してみるとこれは息子への怒りというより、自分への苛立ちとも捉えられる。

そして案の定、満男の言葉どおり(笑)、寅さんは小学校の先生(栗原小巻)に夢中なのであった。
あけみのことなどそっちのけだ。

取り残されたあけみは、島の旅館の息子、茂(田中隆三)と共に行動するようになる。

純朴な好青年の茂はあけみに惚れ、プロポーズ。
あけみは人妻であることをカミングアウトする。
傷つく青年。
そのことで自分も傷つくあけみであった。

もし出会う順番が信吾よりも茂のほうが先だったら、彼女の人生はどうなっていただろう。
おそらく今より幸せだったろう。断言はできないが。
だが、あけみは帰るしかないのだ。あまり相性が良いとはいえない信吾の元へ。

これと同じようなことが寅さんが惚れた相手、真知子先生の身の上にも起こっている。

子連れやもめの酒井(川谷拓三)からプロポーズされたのだ。
彼との友人づきあいは長い。
気心も知れているし、娘(増田未亜)もなついてくれている。
けれど、愛しているのはどちらかといえば寅さんのほう…。

われなべにとじぶた。
最愛の人が、最良の伴侶とは限らない。
男と女のむずかしさ。
こういうことに察しのいい寅さんは、真知子先生の幸せを願いつつ、身を引くのであった。

そして調布飛行場での最後の別れのシーン。
この構図って…『カサブランカ』ですよね?

山田洋次監督、『二十四の瞳』と『カサブランカ』へのオマージュを一挙にやっちゃいましたね、と勝手に納得。

ひとり寂しく去っていこうとする寅さんの足元を猫が一匹通り過ぎる。
その絶妙のタイミング!
傑作には奇跡が味方してくれるというのは本当なんだ。
いやあ、とても良い映画でした。

「男はつらいよ」といえば、全国各地の名所をロケ地に選ぶもの、と思い込んでいた。
でも本作を観て、人が余りいない場所で撮ったほうが高クオリティ作品を量産できていたのかも、と。

DVDの特典映像に入っている撮影現場のスナップショットを見ると、撮影隊をギャラリーがびっしりと取り囲んでいる。
こんな状況ではスタッフも役者さんもなかなか仕事がしづらかったはずだ。
それでもギャラリーを快く受け入れたのは、監督はじめ出演者の方々が優しかったからに他ならない。

本作は「男はつらいよ」スタッフのポテンシャルの高さが十二分に示されている。
何度も見返したくなる一本だ。

ブログタイトルの「二十三半の瞳」とは、真知子先生を囲む同窓生11人とゲスト参加の寅さんと合わせて12人、で二十四の瞳。そこで発せられた寅さんのギャグ、
「目がちっちゃいから二十三半てとこかな」
というセリフからとらせていただきました。

br_banner_kokuban

松竹 寅さんシリーズ 男はつらいよ 柴又より愛をこめて [DVD]
by カエレバ


車寅次郎 : 渥美清
諏訪さくら : 倍賞千恵子
島崎真知子 : 栗原小巻
酒井文人 : 川谷拓三
その娘・千秋 : 増田未亜
車竜造(おいちゃん) : 下條正巳
車つね(おばちゃん) : 三崎千恵子
諏訪博 : 前田吟
桂梅太郎(タコ社長) : 太宰久雄
源公 : 佐藤蛾次郎
諏訪満男 : 吉岡秀隆
桂あけみ : 美保純
御前様 : 笠智衆
茂 : 田中隆三
下田の長八 : 笹野高史
TVキャスター : 森本毅郎
TVアシスタント : 石井和子
女子高生(夢の中のレポーター) : 松居直美
ポンシュウ : 関敬六
青年 : アパッチけん、光石研
青年の同窓生 : 中島唱子、棟里佳
麒麟堂 : 人見明
備後屋 : 露木幸次
印刷工場の工員 : 笠井一彦、マキノ佐代子

監督・原作 : 山田洋次
脚本 : 山田洋次、朝間義隆
製作 : 島津清、中川滋弘
音楽 : 山本直純


<男はつらいよシリーズ - 極私的星取り表>

No.01 [1969.08.27] ★★★★☆ 男はつらいよ (光本幸子、志村喬、広川太一郎)
No.02 [1969.11.15] ★★★☆☆ 続・男はつらいよ (佐藤オリエ、東野英治郎、ミヤコ蝶々、山崎努)
No.03 [1970.01.15] ★★☆☆☆ 男はつらいよ フーテンの寅 (新珠三千代、香山美子、河原崎建三、花沢徳衛)
N0.04 [1970.02.27] ★★☆☆☆ 新・男はつらいよ (栗原小巻、財津一郎、三島雅夫、横内正)
No.05 [1970.08.25] ★★★★☆ 男はつらいよ 望郷篇 (長山藍子、杉山とく子、井川比佐志、松山省二)
No.06 [1971.01.15] ★★★☆☆ 男はつらいよ 純情篇 (若尾文子、森繁久彌、宮本信子、垂水悟郎)
No.07 [1971.04.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 奮闘篇 (榊原るみ、ミヤコ蝶々、田中邦衛、柳家小さん)
No.08 [1971.12.29] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎恋歌 (池内淳子、吉田義夫、岡本茉利、志村喬)
No.09 [1972.08.05] ★★★★★ 男はつらいよ 柴又慕情 (吉永小百合、宮口精二、佐山俊二)
No.10 [1972.12.29] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎夢枕 (八千草薫、田中絹代、米倉斉加年)
No.11 [1973.08.04] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎忘れな草 (浅丘ルリ子、織本順吉、毒蝮三太夫)
No.12 [1973.12.26] ★★★☆☆ 男はつらいよ 私の寅さん (岸惠子、前田武彦、津川雅彦)
No.13 [1974.08.03] ★★★★★ 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ (吉永小百合、高田敏江、宮口精二)
No.14 [1974.12.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎子守唄 (十朱幸代、月亭八方、春川ますみ、上條恒彦)
No.15 [1975.08.02] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎相合い傘 (浅丘ルリ子、船越英二)
No.16 [1975.12.27] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 葛飾立志篇 (樫山文枝、桜田淳子、米倉斉加年、大滝秀治、小林桂樹)
No.17 [1976.07.24] ★★★★★ 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け (太地喜和子、宇野重吉、岡田嘉子)
No.18 [1976.12.25] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎純情詩集 (京マチ子、檀ふみ、浦辺粂子)
No.19 [1977.08.06] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎と殿様 (真野響子、嵐寛寿郎、三木のり平、平田昭彦)
No.20 [1977.12.24] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎頑張れ! (藤村志保、中村雅俊、大竹しのぶ)
No.21 [1978.08.05] ★☆☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく (木の実ナナ、武田鉄矢、竜雷太)
No.22 [1978.12.27] ★★★★☆ 男はつらいよ 噂の寅次郎 (大原麗子、室田日出男、泉ピン子、志村喬)
No.23 [1979.08.04] ★★★★☆ 男はつらいよ 翔んでる寅次郎 (桃井かおり、湯原昌幸、布施明、木暮実千代)
No.24 [1979.12.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎春の夢 (香川京子、ハーブ・エデルマン、林寛子)
No.25 [1980.08.02] ※※※※※ 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 (浅丘ルリ子、江藤潤)
No.26 [1980.12.27] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎かもめ歌 (伊藤蘭、松村達雄、村田雄浩)
No.27 [1981.08.08] ★★★☆☆ 男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎 (松坂慶子、芦屋雁之助)
No.28 [1981.12.28] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎紙風船 (音無美紀子、地井武男、岸本加世子、小沢昭一)
No.29 [1982.08.07] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋 (いしだあゆみ、片岡仁左衛門)
No.30 [1982.12.28] ★★★☆☆ 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎 (田中裕子、沢田研二、朝丘雪路)
No.31 [1983.08.06] ★★★☆☆ 男はつらいよ 旅と女と寅次郎 (都はるみ、北林谷栄、中北千枝子、藤岡琢也)
No.32 [1983.12.28] ★★★★★ 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎 (竹下景子、松村達雄、中井貴一、杉田かおる)
No.33 [1984.08.04] ★★★☆☆ 男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎 (中原理恵、渡瀬恒彦、佐藤B作、秋野太作)
No.34 [1984.12.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎真実一路 (大原麗子、米倉斉加年、風見章子、津島恵子、辰巳柳太郎)
No.35 [1985.08.03] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎恋愛塾 (樋口可南子、平田満、初井言榮)
No.36 [1985.12.28] ★★★★☆ 男はつらいよ 柴又より愛をこめて (栗原小巻、川谷拓三)
No.37 [1986.12.20] ★☆☆☆☆ 男はつらいよ 幸福の青い鳥 (志穂美悦子、長渕剛、桜井センリ)
No.38 [1987.08.05] ★★★★☆ 男はつらいよ 知床慕情 (竹下景子、三船敏郎、淡路恵子)
No.39 [1987.12.26] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎物語 (秋吉久美子、五月みどり、河内桃子)
No.40 [1988.12.24] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日 (三田佳子、三田寛子、尾美としのり、鈴木光枝)
No.41 [1989.08.05] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎心の旅路 (竹下景子、淡路恵子、柄本明)
No.42 [1989.12.27] ★☆☆☆☆ 男はつらいよ ぼくの伯父さん (後藤久美子、檀ふみ、夏木マリ、尾藤イサオ)
No.43 [1990.12.22] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎の休日 (後藤久美子、夏木マリ、寺尾聰、宮崎美子)
No.44 [1991.12.23] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎の告白 (後藤久美子、吉田日出子、夏木マリ)
No.45 [1992.12.26] ★★★★★ 男はつらいよ 寅次郎の青春 (後藤久美子、風吹ジュン、永瀬正敏、夏木マリ)
No.46 [1993.12.25] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎の縁談 (城山美佳子、松坂慶子、島田正吾、光本幸子)
No.47 [1994.12.23] ★★★★☆ 男はつらいよ 拝啓車寅次郎様 (牧瀬里穂、かたせ梨乃、小林幸子)
No.48 [1995.12.23] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎紅の花 (後藤久美子、浅丘ルリ子、夏木マリ、田中邦衛、村山富市、宮川大助・花子)
特別編 [1997.11.22] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇 (浅丘ルリ子、江藤潤)
TV版 [1968.10.03 ~ 1969.03.27] ★★★☆☆ テレビドラマ版 男はつらいよ