今、最も注目すべき人、佐渡島庸平氏が本を出した。
氏は起業する以前は、マンガ「ドラゴン桜」や「宇宙兄弟」などのヒット作を産み出す編集者だった。

とくに「ドラゴン桜」が社会現象とも言える受験対策ブームを引き起こしたのは記憶に新しい。

第1巻の表紙では、弁護士の桜木がふてぶてしい面構えでこう言い放っている。
「東大は簡単だ!!」。
何を隠そう、このセリフを実際に口にしたのが、佐渡島庸平氏本人なのだ。

なにも氏は頭の良さをひけらかそうとして言ったのではない。
こんな当たり前のことがマンガになるわけがない、そう思い込んでいたのである。

次のテーマは何にしようかと考えていたマンガ家の三田紀房氏は、この認識の激しい落差に金脈の匂いを嗅ぎとる。
かくして大ヒット作は産声を上げた。

考えてみれば、一高校生が東大入試の脆弱部分を看破していたわけだ。
最高学府の教授陣が「簡単には解かせないぞ」と、一生懸命問題をつくっているのを、もう一段高いところから見下ろして微苦笑している少年…そんな図を想像するとちょっと痛快である。
そして末恐ろしくもある。

現状を分析できる人は多い。
だが、未来を見通せる人はごく僅かだ。
佐渡島氏はその数少ないうちの一人だ。
しかも若い。感性が瑞々しい。

将来に希望を見いだせない、
この先良くなるとはとても思えない、
という方には一読をお奨めする。
黒く覆われた雲の向こうで、新大陸が発見されるのを待っているのが見えるかも知れない。

(以下、引用)

>ぼくは(週刊モーニングの)編集長に対して「今どき郵便ハガキのアンケートなんて時代遅れじゃないですか? 20代、30代の声を拾うのに適切な方法だとは思えません。携帯サイトを使ってアンケートを取りましょう」と提案しました。
幸いにもその案を採用してもらい、実際に携帯アンケートをやってみると、ハガキよりも5歳以上平均年齢が若くなりました。さらに、小山(宙哉)さんに対する評価も、ハガキのアンケートよりもだいぶ良くて、若い読者には支持されているということがわかったのです。
(中略)
このときも「若い読者は小山さんの感性をわかってくれるはずだ」というぼくが立てた仮説がもとになっています。その仮説を証明するために、携帯アンケートという「情報」を集めてきた。目の前にある結果の悪いアンケートを信じて、どうやって人気をとろうか、小山さんと話をしていたら『宇宙兄弟』は生まれなかったでしょう。

あるとき「いったいジャニーズの何がそんなにいいんですか?」と(モーニング編集部で事務をしている女性に)聞いてみました。
本当にわからなかったのです。彼女が好きだというメンバーよりカッコイイ俳優なんていくらでもいるのに、どうしてそんなに好きなのか。
すると「メンバー同士の仲がいいのが、好きなんです」という答えが返ってきました。もう結成して十数年にもなるジャニーズのそのグループは、メンバー同士がすごく仲が良くて、その様子を見ているだけで幸せになってくるのだと言います。
(中略)
そこで「真の友情」や濃密な絆」をテーマとしたマンガにすると、ヒットするのではないかと仮説を立てたのです。

他にも変化している感覚があります。たとえば「めんどくさい」という感覚です。
動画配信サービスのHuluを使うようになってから、DVDを入れるというその仕草すらめんどくさく感じませんか? 同じようにiTunesを使うようになってからは、CDをパソコンに取り込むということすらめんどくさくなってしまった。
「めんどくさい」と思う基準すら変わってきているのです。

ゲームの質を絶対値ではかると、旧来のゲームのほうがソーシャルゲームに勝つように思いますが、親近感の高いソーシャルゲームのほうが、(面白さを表わすグラフの)面積は広くなります。
コンテンツは、1次元の時代から、<親近感×質>という「2次元」の時代になったのです。
IT技術とは「人と人をつなぎ合わせる技術」です。人と人をつなぎ合わせる技術を最大限に使ったゲームが、この時代に勝つのは必然とも言えます。
マンガの「二次創作」というのも、おもしろさの面積を広くする行為です。

「仕事ができるようになりたい!」と思っている新入社員のときに、まずやることは何でしょうか?
(中略)
電話を取ったり、ファックスを配ったりすることは、雑務でしかないと捉えて、早く後輩に引き継ぎたいと思いがちです。しかし、ぼくは、その二つを時間があるかぎり、数年たってもやっていました。
新人がファックス配りをやると、フロアのみんなの顔を覚えられますし、相手にも顔を覚えてもらえます。そのときに、あいさつや雑談をすることで、自然な形で仕事の情報をもらうことができます。さらに、ファックスの宛名と中味がちらっと見えるので「誰がどれくらい、外部のどんな人と付き合っているか」が推測できます。直接仕事を教えてもらわずとも、そのような情報から先輩たちの仕事を想像することで、自分のやることもだんだんとわかるようになります。

モーニング編集部にいるときに、たくさんの新人マンガ家と出会いました。「磨けば光りそうだな」と感じると「新しい作品を、下書きでいいのですぐにでも持ってきてください」と伝えていました。しかし、本当に下書きを持ってきたのは、数人しかいなかったのです。そのうちの一人が、小山宙哉さんです。
(中略)
磨けば光る才能を持っている人にはたくさん会いましたが、覚悟を持って努力して、それを磨ける人はほとんどいませんでした。観察力も重要な才能ですが、努力できるのも、長期間の仕事をするには重要な資質です。

今の時代を理解しようとする中で、マーク・トゥエインの『トムソーヤの冒険』のエピソードを何度も思い出します。

罰としてペンキ塗りをさせられることになったトムソーヤを、友だちは冷やかしにきます。でも、トムが楽しそうにやっている様子を見て、「ペンキを塗らせてほしい」と友だちは言いだします。
トムはそれを友だちにはやらせません。そして、どうしてもやりたくなった友だちは、自分の宝物をトムに渡して、ペンキ塗りをやらせてもらうのです。

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