本日11月7日は映画監督、吉村公三郎の命日(1911-2000)。
ということで『開戦の前夜』を観てみた。

タイトルからも分かるとおり、戦意高揚映画なのだけれど、これがめっぽう面白い。
主演の上原謙が、やさ男のイメージをくつがえす好演を魅せてくれる。

そして何より特筆すべきは、友人役の笠智衆!
個人的には、本作が笠智衆のベスト・アクトと思う。
笠の出演シーンを切り取って何度も見返そうっと。

戦地(=死地)に赴く前に、上原宅を訪れ酒盛りをする笠。
中国詩を地で行くような展開だ。

言うまでも無く、1943年といえば、太平洋戦争のまっただ中。
笠の友人の中にも、徴兵された人や、あるいはすでに亡くなられた人もいただろう。
そして本人も、また映画の製作スタッフも、いつ赤紙が届くかも分からない状況だった。
当時の男たちの思いを一身に背負ったかのような笠の演技!
死がすぐそばにあったこの時代でなければ決して産み出すことのできない迫力に充ち満ちている。

その笠の思いに感じ入った(というよりも迫力に押された?)上原は、家宝の日本刀を一振り進呈する。
床の間に飾られ朽ちていくよりも、笠と共に散るほうが、日本刀も本望だろう。

たまたま生まれた時代が悪かったために、彼は死んでいくことになるわけだけれど、もし平和な時代に生まれていても、凄い仕事をしでかしたろうと思わせるものがある。
ご本人がまさにそうであったように。
このような男でありたいと思う。

映画の本筋に触れずじまいになってしまったが、かなり面白い。
いわばスパイもので、派手さはないけれど、「007」シリーズなみに分かりやすかった。

当時の映画人たちが、おそらくは本気で作らなかったであろう「国策映画」というジャンル。
刀で例えるならば、ほとんど竹光なのだけれど、その中に一本ギラリと光る真剣が混じっていた。

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『開戦の前夜』 (allcinemaより一部転載)

監督: 吉村公三郎
脚本: 津路嘉郎、武井韶平
撮影: 生方敏夫
音楽: 深井史郎

出演:
田中絹代
上原謙
木暮実千代
原保美
竹内良一
笠智衆