昭和15年(1940)キネマ旬報ベストテン第一位作品。

主演は夏川静江。
本作に高峰秀子は出演していない。
しかし、彼女が女優開眼するきっかけとなった重要な作品としても、本作は知られている。

高峰秀子の自伝「わたしの渡世日記(上)」の中に、以下のような記述がある。

ある夜、豊田四郎演出、夏川静江主演の「小島の春」の完成試写にもぐり込んだ私は、一人の女優の演技に、思わず身を乗り出した。「小島の春」は、ハンセン病患者のためにその一生を捧げた一女医の手記を脚色、映画化した作品であった。私が身を乗り出したのは主演の看護婦が、陽光さんさんと輝く山道を登り、あるハンセン病患者を訪ねる場面(シーン)であった。たぶん、醜く崩れた顔をさらしたくないためだろう、あくまでも看護婦に、つまりキャメラに背を向けたまま、物干し竿から洗濯物をとり込む女の、その演技のずばぬけた上手さ、巧みさ、素晴らしさ!……。私はうめいた。「これこそ演技だ! 私が求めて、見たこともなかった芝居がここにあった!……こんな上手い俳優がこの世に居るとは知らなかった。チキショー! 誰だお前は。いったい、どこのどいつなんだ!」
それが杉村春子という名女優と私との出会いであった。

デコちゃんファンとしては、彼女をこれほどまでに打ちのめした杉村春子の演技を見ずにはいられないところだ。

あと特筆すべきは情緒あふれるカメラ!
日本という国はこんなにも美しかったのかと驚かされた。

そのあたりのことは、豊田四郎監督が、
「キネマ旬報別冊 日本映画代表シナリオ全集 2」
に寄せたコメントで触れている。
誠に勝手ながら引用させていただいた。

三十代の思い出 豊田四郎

東京発声が残した最も記念すべき映画「小島の春」は「癩」を扱ったと言う点でも稀有の作品であろう。
脚本を書かれた八木保太郎さんは、僕に合わせて叙情的な作品にしたと言われたが、あの脚本は、シナリオ技術において最大級の賛辞を受けられていい傑作だと、今日もなお考えている。
特に撮影者故小倉金弥さんのあの卓抜な画は、単に美しいとか、温いとか言う程度を遥かに抜いて、キャメラの芸術性を、はっきりと僕に教えてくれたものである。
しかし、この映画は、僕の三十代の作品であり、当時、余りにも感情的であり過ぎるという批評も受けたのであるが、四十を過ぎ五十をすら越した今日の僕には肯かされるものが確かにある。
だが、その反面、それが如何に叙情に流れ過ぎたものであるとは言っても、又と得難い、若き日の僕の美しさでもあろう。

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Spring of Islet (allcinemaより一部転載)

監督: 豊田四郎
原作: 小川正子
脚本: 八木保太郎
音楽: 津川主一

出演:
夏川静江
菅井一郎
杉村春子
清水美佐子
水谷史郎
勝見庸太郎
林幹
中村メイ子