(2013年4月に刊行された本です。現在とは状況が異なっておりますことをご了承ください)

日本のシンクロナイズド・スイミング界の育ての親、井村雅代がなぜ中国のナショナル・コーチに就任することになったのか。
そのいきさつが本書を読んでよくわかった。

私はてっきり「日本を石もて追われた井村が、見返すために中国に渡り、みごとリベンジを果たした」というような筋立てかと思い込んでいたのだが、事実はまったく違った。

大きくなりすぎた井村の存在感を、日本水泳連盟が煙たがっていたのはたしかなようだが(でなければオリンピックで確固たる実績を残してきた井村をナショナル・コーチから降ろす理由がない)、井村が中国行きを決めた最大の目的は「アジアの底上げ」にあった。

採点競技であるシンクロは、ヨーロッパ勢に高得点が出やすい傾向にある。
それを打破するためには日本、中国、韓国などのアジア勢が一丸となり、勢力地図を塗りかえねばならない。

しかし、井村のこの壮大な計画を理解してくれる人間はほとんどいなかった。

さらに誤解、ねたみも加わったのだろう、井村は「裏切り者」として日本を去る形となった。
その後、中国シンクロ界に初の五輪メダルをもたらし、実力のほどを見せつける。

一方、今まで当たり前のようにメダルを獲得していた日本シンクロ界は凋落の一途をたどる…。

ちょっと話はそれるが、元シンクロ日本代表の石黒由美子さんが2010年に刊行された「奇跡の夢ノート」という本を読んだとき、当時のコーチ陣のあまりのひどさに唖然としたことがある。

減量や練習方法に苦しむ選手たちへのフォローなどまったく為されていないのである。

誤解のなきよう申し添えておくと、「奇跡の夢ノート」という本は、幼い頃に大事故に遭った石黒さんが想像を絶するリハビリにより、オリンピック日本代表となるまでの半生を描いたものである。
日本水泳連盟を糾弾しようとして書かれた本ではまったくないので念のため。

競泳ではなかなかの成績を残しているものの、すっかり表彰台が遠くなってしまった日本シンクロ界。
いったいどうするのかいなとさっきググってみたら、なんと井村氏がナショナル・コーチに復帰されているではないか!

だったら最初から…という言葉はぐっとこらえて、不死鳥のごとく再生をもくろむ日本シンクロ界を応援することにしよう。

本書は他にも仰天エピソードがてんこ盛りだ。
橋下府知事(当時)が、マスコミの前で豹変した話。
正選手の座を降ろされた小谷実可子の母親が、空港で井村コーチを待ち構えていた話などなど。

…そうそう、あの頃国民的アイドルだった小谷実可子が、仲間の演技を観客席で泣きながら見ていたシーン、何となく覚えている。
私もすっかりマスコミに乗せられて「井村ってのは可哀想なことを平気でする、血も涙もないひどいコーチだ」と怒っていたような気が(汗)。
私がバカでした。井村さん、ごめんなさい!

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