マドンナ = 大原麗子

ゲスト = 室田日出男、泉ピン子、志村喬

山田洋次という人は実は二人いるんじゃないかと疑いたくなるほどに、前回とは月とスッポンの出来の良さ。
本気を出した山田&朝倉義隆コンビはこれほどすごいのか。
恐れ入りました。

あらすじ(ネタバレあります!)

[とらや]一同がお墓参り。
すると寅さん(渥美清)が一足先に来ていてバッタリ。
何と義理堅いイイ男なんだろうと、一気に株を上げる。
ところが拝んでいたのは他人のお墓だったというオチがつき、一同大笑い。

その後は[とらや]にて、些細なことから大げんか、またもや旅の人となる寅さん…というおきまりの流れ。

寅さんは静岡で、「渡る世間は鬼ばかり」という目にあったか、橋の上で身を投げようとしている美女を発見し、優しく話を聞いてやる。
瞳(泉ピン子)という女性は元気を取り戻し、いつか[とらや]を訪ねると約束、二人は別れる。

いっぽう葛飾柴又。人手の足りない[とらや]では、荒川早苗(大原麗子)という女性が働くことになる。
こりゃ大変な美人が舞い込んできたと、タコ社長(太宰久雄)は盛り上がるが、寅さんと会っちゃったら大変だぁ、と、今からその瞬間が楽しみ…いや、心配でたまらない様子だ。

…このあたりの山田洋次の演出は心憎いものがある。

観客は『男はつらいよ』を観るとき、無意識にマドンナの登場を心待ちにしている。
そんな心理を見透かしてか、橋の上の美女が登場するときは、後ろ姿やらブーツやらを思わせぶりに映し、期待が高まったところで、泉ピン子のアップをぶつけてくる。

と思いきや、大原麗子が[とらや]を訪ねてくるシーン、つまり初登場の時は、じれったくなるほどにカメラが大原に近寄らないのだ。
もちろん山田監督は、じらしているわけで、こうなると我々は手の平で踊らされるのみだ。
観客の感情を揺さぶる術を知り尽くした山田演出に乾杯(完敗?)するしかない。

そのころ寅さんは旅先で、なんと飈一郎(ひょういちろう = 志村喬)とバッタリ。
飈一郎はいうまでもなく博(前田吟)の実父だ。
久々に会えた寅さんと行動を共にする。

旅館で寅さんに語ってきかせる「今昔ものがたり」が抜群に味がいい。

「あるところに、君のように、二枚目でモテる男がいた…」

そんなことを言われたら身を乗り出してしまうではないか。
それでなくとも、あの“名優"志村喬の語りきかせである。

この話を聞いた寅さんは後に[とらや]で再現してみせる。
もちろんアレンジしまくり、ジェスチャしまくりの、“渥美清版"今昔物語だ。
ちょっと怪談も入っている。
渥美清が金田一耕助に扮しているという『八つ墓村』が観たくなったりして。

もうこのあたりで充分に木戸銭の分は楽しめた。
でも、楽しい時間はまだまだ続く。

「今昔ものがたり」の改変はまだまだ終わらない。
なんと寅さんは商売の啖呵売にもこの話を応用するのである。
聞いて、学んで、応用して、実践に活かす!
寅さんのやっていることはエリート・ビジネスマンと何ら変わりがないではないか、いや本当に。

考えてみれば、渥美清はテキ屋の啖呵売を暗記しており、笠智衆は「不如帰」の前口上を暗記していたという。

(関連記事 ; 『長屋紳士録』(1947・日本)57点。ネタバレ感想 : 23時の雑記帳)

そして、そのことが並みいる役者の中から頭角を現わすきっかけの一つになっている。
日本を代表する名優お二方の姿勢に学びたい。

…話がそれた。

寅さんと早苗のファースト・コンタクトは、タコ社長の期待通り(?)、寅さんにとっては散々なものだったが、その後、持ち前のフェミニストぶりを発揮し、失点を挽回していく。

そこへ現われたのが添田(室田日出男)という高校教師。
早苗の従兄弟である。
室田日出男の演技がまたいいんだ!

寅さんと恋敵の添田との絡みは、たしか3回くらいあったと思うが、こういうことはシリーズの中でもかなり珍しいのではないか。

寅さんは、恋敵と一回会っただけでもうトランクを手にして旅立っていくような人だ。
今でいう“草食系男子"の元祖のようにも見えるが、そうではない。

今回も、早苗の態度を見ている限りでは、この恋のシーソーゲームは寅さんのほうに分があった。
このまま二人して[とらや]を継いで…というレールも見えていた。

だが、そのためには添田の想いを踏みにじらねばならない。
それができない人なんだよなあ、寅さんは。

肉食獣に食べられてしまう草食動物と、
肉食獣に食べ物を与える草食動物。

見た目は同じでも、その意識の差は次元が違うと考えたい。

というわけで今回は寅さんもマドンナもかなり本気で恋をしてくれた、かなり濃い作品となっている。

これはオススメ、名シーン、名ゼリフも沢山ある。

個人的に一番好きなのは、これかな。
飈一郎が田舎に帰る前の日、博たちが住む小さなアパートでの親子の会話。

新幹線のキップくらい俺が買ってやるよ、という息子へひとこと。。。

「いや、いい。年をとるとな、速い乗り物に乗ったって、しかたないんだ。
別に用があるわけじゃないし」

セリフを書き起こしただけでは、なかなか味が伝わらないのがもどかしいが、
ぜひ志村喬の語り口で味わっていただきたい。

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uwasa no torajirou (Wikipediaより一部転載)

監督:山田洋次
製作:島津清
脚本:山田洋次、朝間義隆
音楽:山本直純

キャスト
車寅次郎:渥美清
さくら:倍賞千恵子
車竜造:下條正巳
車つね:三崎千恵子
諏訪博:前田吟
たこ社長:太宰久雄
源公:佐藤蛾次郎
御前様:笠智衆
諏訪飈一郎:志村喬
小島瞳:泉ピン子
添田肇:室田日出男
旅の雲水:大滝秀治
荒川早苗:大原麗子
満男:中村はやと
老人:吉田義夫
田舎の住職:明石潮
川岸の画家:津嘉山正種
ご近所さん:谷よしの
朝日印刷職工:笠井一彦

<男はつらいよシリーズ - 極私的星取り表>

No.01 [1969.08.27] ★★★★☆ 男はつらいよ (光本幸子、志村喬、広川太一郎)
No.02 [1969.11.15] ★★★☆☆ 続・男はつらいよ (佐藤オリエ、東野英治郎、ミヤコ蝶々、山崎努)
No.03 [1970.01.15] ★★☆☆☆ 男はつらいよ フーテンの寅 (新珠三千代、香山美子、河原崎建三、花沢徳衛)
N0.04 [1970.02.27] ★★☆☆☆ 新・男はつらいよ (栗原小巻、財津一郎、三島雅夫、横内正)
No.05 [1970.08.25] ★★★★☆ 男はつらいよ 望郷篇 (長山藍子、杉山とく子、井川比佐志、松山省二)
No.06 [1971.01.15] ★★★☆☆ 男はつらいよ 純情篇 (若尾文子、森繁久彌、宮本信子、垂水悟郎)
No.07 [1971.04.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 奮闘篇 (榊原るみ、ミヤコ蝶々、田中邦衛、柳家小さん)
No.08 [1971.12.29] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎恋歌 (池内淳子、吉田義夫、岡本茉利、志村喬)
No.09 [1972.08.05] ★★★★★ 男はつらいよ 柴又慕情 (吉永小百合、宮口精二、佐山俊二)
No.10 [1972.12.29] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎夢枕 (八千草薫、田中絹代、米倉斉加年)
No.11 [1973.08.04] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎忘れな草 (浅丘ルリ子、織本順吉、毒蝮三太夫)
No.12 [1973.12.26] ★★★☆☆ 男はつらいよ 私の寅さん (岸惠子、前田武彦、津川雅彦)
No.13 [1974.08.03] ★★★★★ 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ (吉永小百合、高田敏江、宮口精二)
No.14 [1974.12.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎子守唄 (十朱幸代、月亭八方、春川ますみ、上條恒彦)
No.15 [1975.08.02] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎相合い傘 (浅丘ルリ子、船越英二)
No.16 [1975.12.27] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 葛飾立志篇 (樫山文枝、桜田淳子、米倉斉加年、大滝秀治、小林桂樹)
No.17 [1976.07.24] ★★★★★ 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け (太地喜和子、宇野重吉、岡田嘉子)
No.18 [1976.12.25] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎純情詩集 (京マチ子、檀ふみ、浦辺粂子)
No.19 [1977.08.06] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎と殿様 (真野響子、嵐寛寿郎、三木のり平、平田昭彦)
No.20 [1977.12.24] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎頑張れ! (藤村志保、中村雅俊、大竹しのぶ)
No.21 [1978.08.05] ★☆☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく (木の実ナナ、武田鉄矢、竜雷太)
No.22 [1978.12.27] ★★★★☆ 男はつらいよ 噂の寅次郎 (大原麗子、室田日出男、泉ピン子、志村喬)
No.23 [1979.08.04] ★★★★☆ 男はつらいよ 翔んでる寅次郎 (桃井かおり、湯原昌幸、布施明、木暮実千代)
No.24 [1979.12.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎春の夢 (香川京子、ハーブ・エデルマン、林寛子)
No.25 [1980.08.02] ※※※※※ 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 (浅丘ルリ子、江藤潤)
No.26 [1980.12.27] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎かもめ歌 (伊藤蘭、松村達雄、村田雄浩)
No.27 [1981.08.08] ★★★☆☆ 男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎 (松坂慶子、芦屋雁之助)
No.28 [1981.12.28] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎紙風船 (音無美紀子、地井武男、岸本加世子、小沢昭一)
No.29 [1982.08.07] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋 (いしだあゆみ、片岡仁左衛門)
No.30 [1982.12.28] ★★★☆☆ 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎 (田中裕子、沢田研二、朝丘雪路)
No.31 [1983.08.06] ★★★☆☆ 男はつらいよ 旅と女と寅次郎 (都はるみ、北林谷栄、中北千枝子、藤岡琢也)
No.32 [1983.12.28] ★★★★★ 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎 (竹下景子、松村達雄、中井貴一、杉田かおる)
No.33 [1984.08.04] ★★★☆☆ 男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎 (中原理恵、渡瀬恒彦、佐藤B作、秋野太作)
No.34 [1984.12.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎真実一路 (大原麗子、米倉斉加年、風見章子、津島恵子、辰巳柳太郎)
No.35 [1985.08.03] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎恋愛塾 (樋口可南子、平田満、初井言榮)
No.36 [1985.12.28] ★★★★☆ 男はつらいよ 柴又より愛をこめて (栗原小巻、川谷拓三)
No.37 [1986.12.20] ★☆☆☆☆ 男はつらいよ 幸福の青い鳥 (志穂美悦子、長渕剛、桜井センリ)
No.38 [1987.08.05] ★★★★☆ 男はつらいよ 知床慕情 (竹下景子、三船敏郎、淡路恵子)
No.39 [1987.12.26] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎物語 (秋吉久美子、五月みどり、河内桃子)
No.40 [1988.12.24] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日 (三田佳子、三田寛子、尾美としのり、鈴木光枝)
No.41 [1989.08.05] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎心の旅路 (竹下景子、淡路恵子、柄本明)
No.42 [1989.12.27] ★☆☆☆☆ 男はつらいよ ぼくの伯父さん (後藤久美子、檀ふみ、夏木マリ、尾藤イサオ)
No.43 [1990.12.22] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎の休日 (後藤久美子、夏木マリ、寺尾聰、宮崎美子)
No.44 [1991.12.23] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎の告白 (後藤久美子、吉田日出子、夏木マリ)
No.45 [1992.12.26] ★★★★★ 男はつらいよ 寅次郎の青春 (後藤久美子、風吹ジュン、永瀬正敏、夏木マリ)
No.46 [1993.12.25] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎の縁談 (城山美佳子、松坂慶子、島田正吾、光本幸子)
No.47 [1994.12.23] ★★★★☆ 男はつらいよ 拝啓車寅次郎様 (牧瀬里穂、かたせ梨乃、小林幸子)
No.48 [1995.12.23] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎紅の花 (後藤久美子、浅丘ルリ子、夏木マリ、田中邦衛、村山富市、宮川大助・花子)
特別編 [1997.11.22] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇 (浅丘ルリ子、江藤潤)
TV版 [1968.10.03 ~ 1969.03.27] ★★★☆☆ テレビドラマ版 男はつらいよ