マドンナ = 木の実ナナ

ゲスト = 武田鉄矢、竜雷太

これはどうも乗れなかった。
SKD(松竹歌劇団)とのタイアップが露骨すぎる。

山田洋次監督に悪意のあろうはずはないが、テーマを勝手に決められて、やる気をなくされたのでは、と根拠のない憶測をしてしまった。

SKDの見せ方が何とも貧乏くさいのだ。
たとえば団員たちの練習場所は小汚いビルの裏で、洗濯物が干されていたりする。
通行人からも丸見えだ。

本番直前に振り付けを確認している姿も、
「じつに感心である」との見方もできなくはないが、
「この後に及んでまだ不安が残っているのか、
これではレベルの高いショーは期待できないな」
と、私などは思ってしまう。

映画を見終えた方が、
「SKDって面白そう。今度ぜひ観に行こう」
となったとは、どうしても思えない。

SKDの舞台が見られる松竹映画はいくつもあるだろう。
最近見た中では、
清水宏監督
『大学の若旦那』(1933)、
『東京の英雄』(1935)
がそうだった。

そこでは戦前とは思えない華やかなステージが展開されている。
それから半世紀近くたち、SKDの舞台がどれだけ変わったかというと…これが驚くほど変わっていない。
結果論になってしまうが、ここまで時代に置き去りにされては、十数年後の解散もやむなしと言わざるをえない。

あらすじをひと言でいうと、
SKDのトップスター木の実ナナが年齢の限界を感じて引退、そして裏方の竜雷太と結婚…という話である。

こんなめでたい話に、なぜ木の実ナナが葛藤しなければならないのか、そのあたりも共感しづらい原因となっている。

それから、団子を買いに来た客に、
「どこで買ったって同じだよ、バカ」
と追い返す寅さんにも笑えず、を通り越して悲しくなってしまった。

おいちゃん、おばちゃん、さくらはこの暴言をなぜ見過ごしたのか。
彼らの人生を冒涜したに等しい、一生出入り禁止、勘当ものの発言だと思うのだが。
松竹ならではのタイアップ映画での、じつに松竹らしからぬ場面だった。

寅さんが客を追い返すシーンは、シリーズ中何度か見られる。
だから、本作だけをやり玉に挙げるのも変な話なのだが、大好きな寅さん映画の中で、この部分にはいつも苦々しい思いをさせられているので、つい書いてしまった。

まあ、文句はこのへんにして。
SKDといえば、忘れちゃいけないのがこの人だ。

(おばちゃん) あんたも娘の時分に憧れてたね、SKDに。
入ってたら今頃どうなってたかね。

(さくら) さあね。

倍賞千恵子がSKD出身であることをご存じの方は、上のやり取りにニヤニヤされたに違いない。

誠に勝手ながら、倍賞千恵子1997年の著作「おにいちゃん」から、関連部分を引用させていただいた。
私を育ててくれた大切な故郷、SKD

渥美さんが言うように、大船撮影所の人たちはみんな親切にしてくれたけど、私はなかなか映画という仕事になじめませんでした。
『斑女』のときなんか、セットの床に私が歩いたり停まったりするところにチョークで線を引っ張られて、
「このコースで歩いて、ここでピッタリ立つんだ。ここより前に出ちゃダメだよ」
と言われたり、
「こっちを見なさい」
とか、
「あっちを見て」
いちいち指図されるのがイヤで、こんな狭い中でコチョコチョお芝居なんかするのがとても苦痛で、早くSKDの舞台に帰ることばかり考えていました。
SKDに帰っても、私の役はだれかに替わられていてみんなが袖で次の景の衣装に着替えているのをうらやましく眺めているだけでしたけど、それでも安心して呼吸ができるのです。
「バイショ、いいねえ、映画に出られて」
なんて、先輩の人たちから言われても、ちっともうれしくなんかありません。
その年は何と九本の映画に出演し、もう舞台へ戻れないのではないかと、不安で仕方がありませんでした。
撮影が早めに終わった日は、門を飛び出して好きな江ノ島に寄り、海に向かって、
「バカヤロウ、撮影所なんか大キライだ!」
とよく叫んだりしたものでした。

渥美さんと初めて会った頃

SKDに入ったのも、私の意志とは言えません。
中学三年になって、何とか高校に進みたくて、いっしょうけんめい勉強をはじめたら、父と母が、
「ここの試験を受けてみなさい」
と、持ってきたのがSKDの願書でした。
ここに入ったら好きな歌が歌えるんだ、踊りも踊れるんだ───。願書を見ているうちにとても入りたくなりました。
幸い合格して、三年間は付属の舞踊学校に通い、授業の一つとして、国際劇場でときどきやっていた歌謡ショーや軽演劇に出演しました。それも学校の指名です。

フランク永井ショーのときは、うしろで踊っているだけでしたけど、村田英雄ショーでは、会津白虎隊の隊員。村田さんの弟で、敵方に斬られて死んでしまう役でした。あとにも先にも、男役はこれだけです。
村田さんが、大見得を切ったあとススススとうしろ向きで後退して、大げさに私をかき抱くのですが、ときどき私に思いきりけつまずくし、顔を近づけて弟の名前を絶叫するものですから唾は飛んでくるし、しかも死んでいるから動いてはいけなくて、とてもつらかった思い出があります。
若山富三郎ショーでは相手役に抜てきされ、月形半平太の恋人・雛菊を演じました。
髷を結って、ポックリを履くと、若山さんよりずっと背が高くなってしまって、
「お前、低くなれよ。もっと低くなれ」
あの恐い目で睨まれました。
いっしょけんめい体を折るようにして歩いたものですから、膝がガクガクになって楽屋でへたりこんだものです。

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監督・原作:山田洋次
脚本:山田洋次、朝間義隆
製作:島津清
音楽:山本直純

キャスト
車寅次郎:渥美清
諏訪さくら:倍賞千恵子
車竜造(おいちゃん):下條正巳
車つね(おばちゃん):三崎千恵子
諏訪博:前田吟
桂梅太郎(タコ社長):太宰久雄
源公:佐藤蛾次郎
諏訪満男:中村はやと
御前様:笠智衆
紅奈々子:木の実ナナ
後藤留吉:武田鉄矢
富士しのぶ:梓しのぶ
留吉の母:杉山とく子
温泉宿の親父:犬塚弘
春子:岡本茉利
備後屋:佐山俊二
夕月静香:小月冴子
古城ゆかり:春日宏美
宮田隆:竜雷太
<男はつらいよシリーズ - 極私的星取り表>

No.01 [1969.08.27] ★★★★☆ 男はつらいよ (光本幸子、志村喬、広川太一郎)
No.02 [1969.11.15] ★★★☆☆ 続・男はつらいよ (佐藤オリエ、東野英治郎、ミヤコ蝶々、山崎努)
No.03 [1970.01.15] ★★☆☆☆ 男はつらいよ フーテンの寅 (新珠三千代、香山美子、河原崎建三、花沢徳衛)
N0.04 [1970.02.27] ★★☆☆☆ 新・男はつらいよ (栗原小巻、財津一郎、三島雅夫、横内正)
No.05 [1970.08.25] ★★★★☆ 男はつらいよ 望郷篇 (長山藍子、杉山とく子、井川比佐志、松山省二)
No.06 [1971.01.15] ★★★☆☆ 男はつらいよ 純情篇 (若尾文子、森繁久彌、宮本信子、垂水悟郎)
No.07 [1971.04.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 奮闘篇 (榊原るみ、ミヤコ蝶々、田中邦衛、柳家小さん)
No.08 [1971.12.29] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎恋歌 (池内淳子、吉田義夫、岡本茉利、志村喬)
No.09 [1972.08.05] ★★★★★ 男はつらいよ 柴又慕情 (吉永小百合、宮口精二、佐山俊二)
No.10 [1972.12.29] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎夢枕 (八千草薫、田中絹代、米倉斉加年)
No.11 [1973.08.04] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎忘れな草 (浅丘ルリ子、織本順吉、毒蝮三太夫)
No.12 [1973.12.26] ★★★☆☆ 男はつらいよ 私の寅さん (岸惠子、前田武彦、津川雅彦)
No.13 [1974.08.03] ★★★★★ 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ (吉永小百合、高田敏江、宮口精二)
No.14 [1974.12.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎子守唄 (十朱幸代、月亭八方、春川ますみ、上條恒彦)
No.15 [1975.08.02] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎相合い傘 (浅丘ルリ子、船越英二)
No.16 [1975.12.27] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 葛飾立志篇 (樫山文枝、桜田淳子、米倉斉加年、大滝秀治、小林桂樹)
No.17 [1976.07.24] ★★★★★ 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け (太地喜和子、宇野重吉、岡田嘉子)
No.18 [1976.12.25] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎純情詩集 (京マチ子、檀ふみ、浦辺粂子)
No.19 [1977.08.06] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎と殿様 (真野響子、嵐寛寿郎、三木のり平、平田昭彦)
No.20 [1977.12.24] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎頑張れ! (藤村志保、中村雅俊、大竹しのぶ)
No.21 [1978.08.05] ★☆☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく (木の実ナナ、武田鉄矢、竜雷太)
No.22 [1978.12.27] ★★★★☆ 男はつらいよ 噂の寅次郎 (大原麗子、室田日出男、泉ピン子、志村喬)
No.23 [1979.08.04] ★★★★☆ 男はつらいよ 翔んでる寅次郎 (桃井かおり、湯原昌幸、布施明、木暮実千代)
No.24 [1979.12.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎春の夢 (香川京子、ハーブ・エデルマン、林寛子)
No.25 [1980.08.02] ※※※※※ 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 (浅丘ルリ子、江藤潤)
No.26 [1980.12.27] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎かもめ歌 (伊藤蘭、松村達雄、村田雄浩)
No.27 [1981.08.08] ★★★☆☆ 男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎 (松坂慶子、芦屋雁之助)
No.28 [1981.12.28] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎紙風船 (音無美紀子、地井武男、岸本加世子、小沢昭一)
No.29 [1982.08.07] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋 (いしだあゆみ、片岡仁左衛門)
No.30 [1982.12.28] ★★★☆☆ 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎 (田中裕子、沢田研二、朝丘雪路)
No.31 [1983.08.06] ★★★☆☆ 男はつらいよ 旅と女と寅次郎 (都はるみ、北林谷栄、中北千枝子、藤岡琢也)
No.32 [1983.12.28] ★★★★★ 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎 (竹下景子、松村達雄、中井貴一、杉田かおる)
No.33 [1984.08.04] ★★★☆☆ 男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎 (中原理恵、渡瀬恒彦、佐藤B作、秋野太作)
No.34 [1984.12.28] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎真実一路 (大原麗子、米倉斉加年、風見章子、津島恵子、辰巳柳太郎)
No.35 [1985.08.03] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎恋愛塾 (樋口可南子、平田満、初井言榮)
No.36 [1985.12.28] ★★★★☆ 男はつらいよ 柴又より愛をこめて (栗原小巻、川谷拓三)
No.37 [1986.12.20] ★☆☆☆☆ 男はつらいよ 幸福の青い鳥 (志穂美悦子、長渕剛、桜井センリ)
No.38 [1987.08.05] ★★★★☆ 男はつらいよ 知床慕情 (竹下景子、三船敏郎、淡路恵子)
No.39 [1987.12.26] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎物語 (秋吉久美子、五月みどり、河内桃子)
No.40 [1988.12.24] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日 (三田佳子、三田寛子、尾美としのり、鈴木光枝)
No.41 [1989.08.05] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎心の旅路 (竹下景子、淡路恵子、柄本明)
No.42 [1989.12.27] ★☆☆☆☆ 男はつらいよ ぼくの伯父さん (後藤久美子、檀ふみ、夏木マリ、尾藤イサオ)
No.43 [1990.12.22] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎の休日 (後藤久美子、夏木マリ、寺尾聰、宮崎美子)
No.44 [1991.12.23] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎の告白 (後藤久美子、吉田日出子、夏木マリ)
No.45 [1992.12.26] ★★★★★ 男はつらいよ 寅次郎の青春 (後藤久美子、風吹ジュン、永瀬正敏、夏木マリ)
No.46 [1993.12.25] ★★★☆☆ 男はつらいよ 寅次郎の縁談 (城山美佳子、松坂慶子、島田正吾、光本幸子)
No.47 [1994.12.23] ★★★★☆ 男はつらいよ 拝啓車寅次郎様 (牧瀬里穂、かたせ梨乃、小林幸子)
No.48 [1995.12.23] ★★☆☆☆ 男はつらいよ 寅次郎紅の花 (後藤久美子、浅丘ルリ子、夏木マリ、田中邦衛、村山富市、宮川大助・花子)
特別編 [1997.11.22] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇 (浅丘ルリ子、江藤潤)
TV版 [1968.10.03 ~ 1969.03.27] ★★★☆☆ テレビドラマ版 男はつらいよ