ルビッチ狂いが昂じて、ついに海外のDVDにまで手を出してしまった。

英語はちんぷんかんぷん、ネットの力を借りて何とか理解しようと努めているが…学生時代ちゃんと勉強しとけば良かったなあ。

サイレント映画で、字幕が少ないのがせめてもの救いだ。



ちなみに私はamazon U.S.A.から購入した。
DVD5枚組BOXセット。値段は約50ドル。

もちろん日本語字幕は一切無し。
解説等もついていない。ここまでシンプルだと潔さを感じる。

内容はドキュメンタリー1本(英語字幕付き)と、ベルリン時代のサイレント映画が6本の合計7本。

タイトルは。。。

『男になったら I Don't Want to Be a Man』(1918)
『牡蠣の王女 Oyster Princess』(1919)
『花嫁人形 The Doll』(1919)
『デセプション Anna Boleyn』(1920)
『寵姫ズムルン Sumurun』(1920)
『山猫リシュカ The Wildcat』(1921)

『Ernst Lubitsch in Berlin』(2006)

ルビッチの作風を考えるとき「1923年」を大きな節目と捉えることができるかも知れない。

なぜならこの年に封切られたチャップリン監督作品『巴里の女性』にルビッチは多大な衝撃を受けたと言われているからだ。

だとするならば、今回観賞した『牡蠣の王女』は、“開眼"に至る4年前の作品ということになるので、ルビッチらしさはそんなには…いや、やっぱり多少は感じられる。

新婚の二人の部屋が、廊下を挟んで左右対称、つまりドアとドアが向かい合わせになっていて、観る者の想像力をくすぐるあたりは、いかにもルビッチらしい。

ちなみに私が一番ルビッチらしさを感じたところは、いわゆる“ルビッチ・タッチ"と呼ばれる洒落た演出ではなく脚本だった。

召使いを数十人(数百人?)かかえる超絶大富豪の娘との結婚に、没落貴族の男性が飛びつかないのである。

これは「金に目が眩まないオレってかっこいい」とかのレベルではなく、そもそも金銭的なことに対してまったく無頓着なのだ。

今の時代なら「こんな男いるわけがない」という理由で、シナリオの段階で却下されるかも知れない。

この精神のゴージャスさには、いつものことながら感服させられる。

あらすじ(ネタバレあります!)

牡蠣で財をなした“牡蠣王"の娘オッシ(オッシ・オズバルダ)が、部屋中の物を壊しまくっている。
“靴クリーム王"の娘が貴族と結婚したのが、たまらなく悔しいのだ。

「あたしも結婚する、今すぐ!」とせっつかれた父親のクエイカー(ビクトール・ヤンソン)は、結婚仲介業者(アルベルト・パウリヒ)に依頼する。

白羽の矢を立てられたのは、没落貴族のヌキ王子(ハリー・リートケ)。
ヌキ王子はボロアパートに、召使いのヨーゼフ(ユーリウス・ファルケンシュタイン)と二人で住んでいる。

…ここでちょっと分からない点があった。

部屋の中で慎ましく洗濯物を手洗いしているヌキ王子。
そこへ玄関のチャイムが鳴ると、あわててヌキ王子は指に嵌めてあったいくつかの指輪を外し、引き出しの中へ隠すのだ。

そして訪ねてきたのが結婚仲介業者だと知ると、今度は慌てて指輪をはめ直す。

ヌキ王子の履歴書には確か、
「多大な借金あり」
と書かれてあったはず。

本当は隠し財産を持っているということ?
このあたりがちょっと意味不明…。

さて、あまり結婚に乗り気でない王子は、まずは様子見にヨーゼフを差し向ける。

風采の上がらない中年男のヨーゼフだが、そんなの構わないとばかりにすぐに結婚を決めるオッシ。

…この時オッシは、ヨーゼフのことをすっかりヌキ王子と思い込んでいる。
そこまではよいとして、なぜヨーゼフが否定せずにそのままヌキ王子の名を借りて結婚したのか。
ここもよく分からない…。

これもさておき、結婚式のパーティー、社交ダンス、晩餐会のシーンは圧巻!

ちなみに1919年の封切り当時には、20人編成のオーケストラがオリジナル伴奏曲を演奏した、と「ルビッチ・タッチ」に書いてあった。
やることが洒落ているなあ。

そんな盛大な新婚初日から、新郎のヨーゼフは酔いつぶれてしまって使い物にならない。

その頃、ヌキ王子はといえば、こちらも友人たちと飲み明かしている。
二人ともアル中だったんかい!

アル中といえば、新婦のオッシは、
「アルコール依存症患者を救済する会」
に入っている。
メンバー全員が裕福な家の娘たちである。

そこへ偶然ヌキ王子が転がり込んできた。

実はヌキ王子、泥酔状態で馬車に乗り込んだまではよかったがそのまま正体をなくし、困った馭者がおそらく会のことを知っていて、これ幸いとばかりに連れてきたのだろう。

美男子のヌキ王子を一目見たとたん、突如はじまる争奪戦。
ボクシングで決着をつけましょ! というあり得ない展開に。

案の定(?)オッシがチャンプとなり、たちまち二人は相思相愛に。
だが悲しいかな、オッシは結婚したばかりなのだった。
そこへやってきたヨーゼフ。
事の成り行きを聞いて突然笑い出す。

「自分はヌキ王子の名前で結婚したのですから、あなたたちはもう立派な夫婦なのですよ」

まあ、何はともあれめでたしめでたし!?

最後に、「ルビッチ・タッチ」から、何とルビッチ本人が本作について語っている部分を、誠に勝手ながら引用させていただいた。

(『エルンスト・ルビッチ作品目録』に対する返信として書かれた手紙より抜粋)

私がドイツ時代に監督したコメディのなかから秀作を挙げるとすると、『牡蠣の王女』『花嫁人形』『白黒姉妹』の三本になります。『牡蠣の王女』は、私のコメディのなかでスタイルらしきものが初めて姿をあらわした作品です。当時話題となったシーンがありました。貧しい男が大富豪の屋敷の広大な玄関ホールで待たされます。そこは床が寄せ木張りになっていて、幾何学的な模様ができあがっています。男は長い待ち時間の無聊をなぐさめようと、床の模様に合わせてステップを踏んで遊ぶのです。このシーンのもつ微妙なニュアンスは説明しがたく、また私の演出が成功したかどうかもわからないのですが、私がコメディから諷刺へと転換したのはこれが機縁となったのでした。





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関連リンク : エルンスト・ルビッチ監督作品(いちおう年代順です)
★★☆☆☆ 『牡蠣の王女』(1919・ドイツ)

★★★★★ 『花嫁人形』(1919・ドイツ)

★★★☆☆ 『デセプション』(1920・ドイツ)

★★★★☆ 『結婚哲学』(1924・アメリカ)

★★☆☆☆ 『ウィンダミア夫人の扇』(1925・アメリカ)

★★☆☆☆ 『山の王者』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 『ラブ・パレード』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 上質な時間、『モンテカルロ』(1930・アメリカ)

★★★☆☆ 『陽気な中尉さん』(1931・アメリカ)

★★★★☆ 『私の殺した男』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『君とひととき』(1932・アメリカ)

★★☆☆☆ 『極楽特急』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『生活の設計』(1933・アメリカ)

★★★☆☆ 『メリー・ウィドウ』(1934・アメリカ)

★★★★☆ 『天使』(1937・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『青髭八人目の妻』(1938・アメリカ)

★★★★★ 『ニノチカ』(1939・アメリカ)

★★★★☆ 『街角 桃色の店』(1940・アメリカ)

★★☆☆☆ 『淑女超特急』(1941・アメリカ)

★★★★★ 『生きるべきか死ぬべきか』(1942・アメリカ)

★★★★☆ 『天国は待ってくれる』(1943・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『ロイヤル・スキャンダル』『クルニー・ブラウン』『あのアーミン毛皮の貴婦人』

<書籍>

「ルビッチ・タッチ」ハーマン・G・ワインバーグ(著),宮本高晴(訳)

Die Austernprinzessin
Oyster Princess

監督
エルンスト・ルビッチ

脚本
エルンスト・ルビッチ

撮影
テオドール・スパルクール

キャスト
ビクトル・ヤンソン
オッシ・オズバルダ
ハリー・リートケ