ファン待望の一冊が刊行された。
ただひたすら感謝、感謝。

現在、日本で比較的容易に入手できるルビッチ映画は約20本ほど。
それだけでも大変ありがたいことだが、まだ半分以上も(!)日本未発売、あるいは絶版となっている映画がある。
ファンとして、これを観ないでは死んでも死にきれない。

今後、これらの映画が製品化、あるいは上映、放映されることを期待したいと思う。

(以下、引用)
ビリー・ワイルダー / チャールズ・ブラケット
(『青髭八人目の妻』『ニノチカ』脚本共同執筆)

彼は映画を大きくひとつとして見るのではなく、部分の集合として組み立てていった。そして各部分を検討するにあたってなんともすさまじい要求をしてくるのだ。「このシーンは絶品でなくちゃいけない」と。そのために、われわれ共同執筆陣は額を集め、空気ドリルのように息を詰めて考え続けなければならない。シーンが“絶品なもの"となるまで。
いまでもおぼえているのは、その圧力が最も重くのしかかっているとき、頭をしぼり続けて気も遠くならんばかりとなっているそのとき、ルビッチが唯一の避難場所である洗面所に長いあいだ引きこもった挙げ句、しばしば見事な解決策を得て部屋にもどってくることだ。洗面所のどこにゴーストライターを隠しているのだと、われわれは彼を問い詰めたものだ。

ハンス・クレーリー
(『三人の女』『当世女大学』『思ひ出』『山の王者』脚本共同執筆)

記憶のなかのルビッチを思い返すとき、彼との仕事はほんとうに楽しかったと、なつかしさがこみあげてくる。どんなシナリオも六週間より長くかかったことはなかった。しかも一日の仕事はせいぜい数時間(その間にルビッチが吸った葉巻の量たるや!)。じっさいに仕事をした時間こそ短かったかもしれないが、ルビッチの集中力はものすごくて、数時間根を詰めていると彼はすっかり疲れはててしまうのだった。そんなとき彼のほうから声をかけてくる。きっと君は疲れきっているから、このあたりでやめておこうか、と!
(中略)
脚本家として嬉しかったもうひとつのことは、最終稿の一字一句がすべてそのままスクリーンに置き換えられていたことだった。撮影に入っても、ルビッチはシナリオを絶対に変更しなかった。俳優がその場の思いつきで別のセリフを提案してくると彼は憤然として拒絶したものだ。

グレタ・ガルボ
(『ニノチカ』主演)

ルビッチはハリウッドではただひとりの偉大な監督だった。
『ニノチカ』はそういう監督と組めた最初で最後の機会だった。
(メルセデス・デ・アコスタ「心の声」より)

サムソン・ラファエルソン
(『私の殺した男』『メリー・ウィドウ』『街角 桃色の店』『君とひととき』『極楽特急』『天国は待ってくれる』脚本共同執筆)

時には袋小路に入ってしまうこともある。どうにも動きようのなくなるときが。最初の概要に書いておいた構想にもどっても埒があかない。そういうときルビッチが考案した脱出法があり、私もそれ以来ずいぶん応用させてもらってきた。「こうしようか、サム」とルビッチは切り出すんだ。「つまらないのを承知で書いてみよう。現実に似せて。現実の生活で人が話すとおりに。なんの曲もない退屈なことばで。そうやってみて、何か思い浮かぶか、みてみるんだ」。これは妙案だった。そういう作業から、ときに思いもよらぬすばらしいシーンが現われだしてくる───あるいはその正反対で、どうしようもなく冗漫な、退屈きわまりないシーンが出来上がる。でも、そういった場合でも、どうやってはいけないかということがわかり、不意に正解が見えてきたりする。それ以来、私も自分ひとりの仕事のときに、しばしばその手を使っている。効果絶大なものがあるね。

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関連リンク : エルンスト・ルビッチ監督作品(いちおう年代順です)
★★☆☆☆ 『牡蠣の王女』(1919・ドイツ)

★★★★★ 『花嫁人形』(1919・ドイツ)

★★★☆☆ 『デセプション』(1920・ドイツ)

★★★★☆ 『結婚哲学』(1924・アメリカ)

★★☆☆☆ 『ウィンダミア夫人の扇』(1925・アメリカ)

★★☆☆☆ 『山の王者』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 『ラブ・パレード』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 上質な時間、『モンテカルロ』(1930・アメリカ)

★★★☆☆ 『陽気な中尉さん』(1931・アメリカ)

★★★★☆ 『私の殺した男』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『君とひととき』(1932・アメリカ)

★★☆☆☆ 『極楽特急』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『生活の設計』(1933・アメリカ)

★★★☆☆ 『メリー・ウィドウ』(1934・アメリカ)

★★★★☆ 『天使』(1937・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『青髭八人目の妻』(1938・アメリカ)

★★★★★ 『ニノチカ』(1939・アメリカ)

★★★★☆ 『街角 桃色の店』(1940・アメリカ)

★★☆☆☆ 『淑女超特急』(1941・アメリカ)

★★★★★ 『生きるべきか死ぬべきか』(1942・アメリカ)

★★★★☆ 『天国は待ってくれる』(1943・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『ロイヤル・スキャンダル』『クルニー・ブラウン』『あのアーミン毛皮の貴婦人』

<書籍>

「ルビッチ・タッチ」ハーマン・G・ワインバーグ(著),宮本高晴(訳)