私はこの映画をルビッチ作品ではなく、ワイルダー作品と認識している。

ルビッチ映画の主人公が「金のために結婚する」なんて考えられない。
いや、私がどう考えようと、現にこの映画があるのだけれど。

ほかにも男性が女性に平手打ちを見舞ったり、お尻ペンペンしたりとか、こんな暴力的な人物、ルビッチらしくない。

なぜルビッチはこの映画が世に出ることを許したのだろう。

発売されたばかりの「ルビッチ・タッチ」に答えが書かれているかもと思い、ひもといてみたら、
『青髭八人目の妻』(1938)はすどおりすることにし、

だって。
この作品には1行も割かれていない。517ページもあるのに!
ただし撮影当時の貴重なスナップは数点載っている。念のため。



というわけで、以下は推測になるのだけれど、

パラマウントの契約を完了するために、手抜いて撮った。

というのがなんの根拠もない私の想像。

ルビッチは翌年MGMに移る。
そして7年越しのラブコールが晴れて実を結び、グレタ・ガルボを主演に迎え入れての映画製作が始まる。

脚本を担当したのは『青髭〜』と同じ、ビリー・ワイルダーとチャールズ・ブラケット。
後に『サンセット大通り』『失われた週末』などの名作を生み出すことになるコンビに、ウォルター・ライシュが加わっての3人体制だ。
そして傑作『ニノチカ』が生まれる。

してみると『青髭〜』が傑作になり得なかったのを脚本家のせいにすることはできないなあ。
ワイルダー&ブラケットを指名したのはルビッチ本人のようだし。
やはり、ルビッチにやる気がなかったという以外に考えられない。

ゲイリー・クーパー、クローデット・コルベール。
どちらも全然悪くない。

ただしデビッド・ニーブンは去勢された犬のよう。
これは本人、経歴から抹殺したい一本かも知れない。

以上のことから一つ分かったのは、
ルビッチとワイルダーは師弟関係にあっても、その作家性は対極にあるということ。

「金目当てで結婚する女」は、今どきは非難の対象にすらならない。
それのどこが悪いの? てなもんだろう。

本作がワイルダー監督名義だったら、もう少し笑えたと思う。
だが、ルビッチにはそういう現実的なキャラクターを扱ってほしくない。
あくまでも“恋愛至上主義"を貫いてほしいのだ。

私はどちらの監督も好きだけれども、観るときには無意識のうちにモード・チェンジしていたのだなあと、今回あらためて気づかされた。

あらすじ(ネタバレあります!)

大富豪のクーパーがC・コルベールに惚れる。
クーパーは7回の離婚歴があるので、コルベールは、
「離婚したら慰謝料10万ドル支払う」
という契約を結ばせた上で結婚。

コルベール、苦心の末、離婚に成功。
だがそうなって初めて愛していたことに気づく。
かくして二人はヨリを戻し、めでたしめでたし。

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関連リンク : エルンスト・ルビッチ監督作品(いちおう年代順です)
★★☆☆☆ 『牡蠣の王女』(1919・ドイツ)

★★★★★ 『花嫁人形』(1919・ドイツ)

★★★☆☆ 『デセプション』(1920・ドイツ)

★★★★☆ 『結婚哲学』(1924・アメリカ)

★★☆☆☆ 『ウィンダミア夫人の扇』(1925・アメリカ)

★★☆☆☆ 『山の王者』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 『ラブ・パレード』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 上質な時間、『モンテカルロ』(1930・アメリカ)

★★★☆☆ 『陽気な中尉さん』(1931・アメリカ)

★★★★☆ 『私の殺した男』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『君とひととき』(1932・アメリカ)

★★☆☆☆ 『極楽特急』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『生活の設計』(1933・アメリカ)

★★★☆☆ 『メリー・ウィドウ』(1934・アメリカ)

★★★★☆ 『天使』(1937・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『青髭八人目の妻』(1938・アメリカ)

★★★★★ 『ニノチカ』(1939・アメリカ)

★★★★☆ 『街角 桃色の店』(1940・アメリカ)

★★☆☆☆ 『淑女超特急』(1941・アメリカ)

★★★★★ 『生きるべきか死ぬべきか』(1942・アメリカ)

★★★★☆ 『天国は待ってくれる』(1943・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『ロイヤル・スキャンダル』『クルニー・ブラウン』『あのアーミン毛皮の貴婦人』

<書籍>

「ルビッチ・タッチ」ハーマン・G・ワインバーグ(著),宮本高晴(訳)

Bluebeard's Eighth Wife (映画.comより一部転載)

監督 エルンスト・ルビッチ
脚色 チャールズ・ブラケット、ビリー・ワイルダー
原作 アルフレッド・サボア
撮影 レオ・トーバー
美術 ハンス・ドライアー、ロバート・アッシャー
音楽 ウェルナー・R・ハイマン、フレデリック・ホランダー
編集 ビリー・シャイ

キャスト
クローデット・コルベール - Nicole_De_Loiselle
ゲイリー・クーパー - Michael_Brandon
エドワード・エベレット・ホートン - The_Marquis_De_Lo'selle
デビッド・ニーブン - Albert_De_Regnier
エリザベス・パターソン - Aunt_Hedwige
ハーマン・ビング - Monsie_r_Peplnard
ウォーレン・ハイマー - Kid_Mulligan
フランクリン・パングボーン - Assistanat_Hotel_Manager
アルマン・コルテス - Assistanat_Hotel_Manager
ロルフ・セダン - Floorwalker
ローレンス・グラント - Professor_Urganzeff
ライオネル・ペープ - Monsieur_Potin
タイラー・ブルック - Clerk
トム・リケッツ - Uncle_Andre
バーロウ・ボーランド - Uncle_Fernandel