豪華な結婚式。そこにいきなりの雷雨。
いつの間にか花嫁がいない。

かなり年のいった花婿がオロオロしている。
この時、彼は何と言ったか。

「パパ! パパ!」

超大金持ちなのに、なぜ花嫁に逃げられたのか。
この一言ですべて察しがつく。さすがはルビッチ。

ウェディングドレスを脱ぎ捨て、召使い(ザス・ピッツ)連れて列車に飛び乗ったマーラ伯爵(ジャネット・マクドナルド)。

これを咎めに来た駅員のセリフがまた洒落ている。

「動き出してから飛び乗ったお方?」

邦画…に限った話ではないが、こういう場面ではよく、理はこちらにありとみると、かさにかかって責め立てるものだ。

けれど、ルビッチ映画にはそういうシーンがほとんどない。
いい気持ちにさせてくれる秘密はこんな所にあるのかも。
翻訳の方もさすが分かっていらっしゃる。

車中で伸びやかに歌うJ・マクドナルドが良い。
汽笛、鐘、車輪の音がリズムを奏でて盛り上げる。
トーキー初期ですでにこんなこともやっていたのかと驚かされる。

そして眼下に広がる広大な畑では、農夫たちが大きく手を振りながら合唱に加わる。
これぞ映画の愉楽!という感じだ。
まさか黒澤明の『天国と地獄』は本作にインスパイアされた!?

モンテカルロで降りたマーラ嬢は、お金もないのにホテルのフロアを借り切ってゴージャスな生活を送り始める。

そんな彼女を見初めたのがルドルフ伯爵(ジャック・ブキャナン)。
何とかお近づきになろうとするが、なかなか牙城を崩せない。

そこで彼は美容師ポールとして雇われることを思いつき、これに成功する。

意気揚々と出勤するポール(=ルドルフ)。
「主人に仕えるに当たっての使用人の心得」
を召使いが説明するシーンが面白い。

召使い「メイドといちゃつくことをご主人は一番嫌います」

ポール「しません」

召使い「よろしい。ところで誤解のないように言っておきますが…」

と、ここでしなを作ってひと言。

召使い「私はメイドじゃないの」

…さて、もともと器用なのか、カットの腕がサマになっていく上に、運転手、給仕も兼ねるようになったポールである。

いきなりオットー伯爵(クロード・アリスター)が尋ね当ててきた。
「パパ!」の名言を残したあの人だ。

この時点で、マーラは借金だらけ。
こうなったらもう金のために結婚しようかと、心が折れかけている。

ここでポールがマーラに提案する。
「自分は父親から“ツキ"を受け継いだ。
これからカジノに行って、一財産作りましょう」

タキシードでばっちりきめてきたポールに、ときめきを隠せないマーラ。
最後の1000フランを預ける。

…もうこのあたりで「自分も伯爵である」と身分を明かしても良いように思うのだが…。

それでは金銭をちらつかせているオットーと同じになってしまう、身分を盾にとるのは潔くないという考え方なのか。
あくまでも中身に惚れてくれ、ということなのだろう。

カジノに出かける二人は待たせてる車に乗り込む。
ここでまたちょっとしたルビッチ・タッチ。

二人とも当たり前のように後部座席に座る。
数秒後、「あ、運転手は僕だった」とばかりに前に回るポールがおかしい。

さらにカジノに到着した時には、助手席にマーラが座っている。
いつの間に移動したの? なにがあったの?
例によって「ご想像にお任せ」のルビッチ演出でした。

カジノに到着すると、おっとどっこいオットーの姿が。
さあ、どうする?

ここで一気に時間が飛ぶ。

うっとりした表情でかえってくるマーラ。
召使いへの説明によると、オットーがいたのでカジノを回避し、モンテカルロを散歩したというのだ。
そしてその後、カジノへはルドルフ一人で行ってもらったと。
(ここからは“ポール"ではなく“ルドルフ"表記です)

ルドルフはどうしたかというと、これがどうもカジノには行かなかったようだ。
自室の引き出しから20万フランを取り出し、マーラには賭博で儲けたといって渡す。

この札束がとてもくたびれているように見えるのだが…。

以上のことから察するに、

・父親から“ツキ"を受け継いだというのはウソ

・身分は伯爵であるというのもウソ

…とまでは思わないが、オットーの足下も及ばない貧乏伯爵であることは確かと思われる。

まあ、そのへんはあまり拘らずに先に進もう。

すっかり雇われ美容師から恋人に昇格したと思ったルドルフだったが、翌朝のマーラの態度は冷め切っている。
一夜明けで、恋の魔法が解けてしまったかのよう。

これにはさすがのルドルフもあきれたか、
それとも恋よりも身分の違いを優先するマーラに落胆したか、彼は怒りのキスをくれた後、永遠の別れを告げる。

今度はマーラが落ちこむ番だ。
必死でルドルフの行方を捜す。
ただし、あくまでも「今晩オペラに行くので美容師ポールを探している」という体裁を取っている。
マーラがオペラに一緒に出かける相手はオットー伯爵だ。

美容師として姿を現わすルドルフ。
彼の機嫌を取り結ぼうとするマーラに向かい、彼は意外なことを言う。

「自分が来たのは、あなたを綺麗に仕上げて、自分の腕前を観劇に来た女性たちに売り込むためだ」

マーラは言わば広告塔に過ぎないというわけだ。
私のこと、もう好きではないのね、と落ちこむマーラ嬢である。

オペラ「ムッシュ・ボウケア」はなんと、マーラと美容師ポールの悲恋をそのまま物語にしたものだった。

(それもそのはず、「ムッシュ・ボウケア」を原案に『モンテカルロ』が作られたそうだ。
今風に言うと「メタ・ストーリー」ってやつかな。ちょっと適当)

しぶしぶオットーの隣に座るマーラ。
ふと向こうの席を見ると、なんとルドルフがいる。

オペラの内容に驚きっぱなしのマーラを見てはクスクス笑っている。

現実もオペラの通りだとすると、ルドルフは美容師ではなく、身分を偽っていることになる。
たまらずルドルフの元へ駆けていくマーラ。

「あなたの正体を教えて」
答えないルドルフ。もうイジワルさんなんだから。

オペラは悲運で幕を閉じる。
主人公と自分を重ね合わせて泣き出すマーラ。
ルドルフはそんな彼女をそっと抱きしめる。
それがルドルフの答えだった。

来た時と同じように、列車で故郷に戻るマーラ。
来た時と違うのは、隣にルドルフが寄り添っていること。

晴れ渡る空の下、農夫たちが二人に大きく手を振っている───。

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関連リンク : エルンスト・ルビッチ監督作品(いちおう年代順です)
★★☆☆☆ 『牡蠣の王女』(1919・ドイツ)

★★★★★ 『花嫁人形』(1919・ドイツ)

★★★☆☆ 『デセプション』(1920・ドイツ)

★★★★☆ 『結婚哲学』(1924・アメリカ)

★★☆☆☆ 『ウィンダミア夫人の扇』(1925・アメリカ)

★★☆☆☆ 『山の王者』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 『ラブ・パレード』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 上質な時間、『モンテカルロ』(1930・アメリカ)

★★★☆☆ 『陽気な中尉さん』(1931・アメリカ)

★★★★☆ 『私の殺した男』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『君とひととき』(1932・アメリカ)

★★☆☆☆ 『極楽特急』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『生活の設計』(1933・アメリカ)

★★★☆☆ 『メリー・ウィドウ』(1934・アメリカ)

★★★★☆ 『天使』(1937・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『青髭八人目の妻』(1938・アメリカ)

★★★★★ 『ニノチカ』(1939・アメリカ)

★★★★☆ 『街角 桃色の店』(1940・アメリカ)

★★☆☆☆ 『淑女超特急』(1941・アメリカ)

★★★★★ 『生きるべきか死ぬべきか』(1942・アメリカ)

★★★★☆ 『天国は待ってくれる』(1943・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『ロイヤル・スキャンダル』『クルニー・ブラウン』『あのアーミン毛皮の貴婦人』

<書籍>

「ルビッチ・タッチ」ハーマン・G・ワインバーグ(著),宮本高晴(訳)

Monte Carlo (映画.comより一部転載)

監督 - エルンスト・ルビッチ
脚本 - エルネスト・バイダ、ビンセント・ローレンス
原作 - ハンス・ミュラー、ブース・ターキントン、エベリン・グリーンリーフ・サザーランド
台詞 - ビンセント・ローレンス
撮影 - ビクター・ミルナー
作詞作曲 - レオ・ロビン、リチャード・ホワイティング、W・フランク・ハーリング

キャスト
ジャック・ブキャナン - Count_Rudolph_Farriere
ジャネット・マクドナルド - Countess_Mara
ザス・ピッツ - Maria
タイラー・ブルック - Armand
クロード・アリスター - Prince_Otto_von_Liebenheim
ライオネル・ベルモア - Duke_Gustave_von_Liebenheim
ジョン・ローシュ - Paul
アルバート・コンティ - Masterof_Ceremony
ヘレン・ガーデン - Lady_Mary
ドナルド・ノビス - Monsieur_Beaucaire
デイビッド・パーシー - Herald
エリック・ベイ - Lord_Winderset