トム・ハンクスとメグ・ライアンの『ユー・ガット・メール』の元ネタといったほうが通りが良いか。
その前に、ジュディ・ガーランド主演『グッド・オールド・サマータイム』というミュージカル映画としてもリメイクされているようだ。
こちらもぜひ見てみたい。
バスター・キートンも出ているそうなので楽しみ。

オリジナルの『街角 桃色の店』の脚本はサムソン・ラファエルソン。
てっきりビリー・ワイルダーかと思っていた。
例えばこんなギャグ。。。

(客)この29.50ドルのバッグはいくらかしら?

(店員)29.50ドルです

(客)じゃあいらないわ

まあでも通して観てみると、まさにクリスマス映画と呼ぶにふさわしい暖かい雰囲気に充ち満ちている。

初めは毒気の無さに物足りなさを感じたが、むしろそのおかげで品格のある映画に仕上がった。

ストーリーはほとんど、マトチェック商会という小さなデパートの中で展開する。
店員の誰もが気が良く、思いやりに満ちている。
そりゃあケンカもあるし、嫌なヤツもいるけれど、今時のドラマによくある陰惨なパワハラ、セクハラは観ずに済んだ。

こんな社長や同僚となら、いっしょに働いてみたいものだ

あらすじをひと言で言うと、

(ネタバレあります!)



「まだ見ぬ文通相手は、実は知り合いだった」
というお話。

「あしながおじさん」のパターンかなと思ったが、よくよく注意してみるとちょっと違うようだ。

新入社員のノバク(マーガレット・サラバン)と、上司のクラリク(ジェームズ・スチュワート)は文通していて…って「文通」はもう死語かも知れないなあ。

今でいう「メル友」みたいな…こんな説明でいいのだろうか。
ああそうそう、「文通」相手のことをペンフレンドと言ったっけ。

クラリクが新聞でペンフレンド募集の広告を出したのがきっかけで、ノバクと手紙をやり取りしているうちに、お互いに好意をもつようになる。

それでついに二人は会う約束をするのだけれど、先に約束の場所に来ていたノバクこそが文通相手だと知ったクラリクは名乗れなくなってしまう。

毎日顔を合わせればケンカをしている相手と、手紙の上ではロマンチックに恋を語りあっていたのだから、その気持ちは分からないでもない。

ここで見落としがちなことがあるのだが…
実はクラリク、手紙の内容の半分は剽窃しているのだ。

このことは映画の中で2回言及される。

1回目は、社長夫妻との会食で、夫人に詩を贈ったというエピソード。

「あの詩は素晴らしかった」
と社長に褒められたクラリク、
「あれは半分シェークスピアのパクリです」
と告白。

2回目は、ノバクに送った手紙の内容を、クラリクが暗誦する場面。

ノバク「なぜあなたが知っているの?」
クラリク「だって元ネタはユゴーだからさ」

…この映画が『あしながおじさん』と違うのはこの点である。

手紙の主はクラリクだった。
けれども、本当のクラリクではなかった。

いろんな文豪の名文を寄せ集めた「誰でもないもの」と、ノバクは文通し、恋をしていたのだ。

だから、
「手紙の相手はあなただったのね」
でハッピーエンド、なのではなく、

「手紙の相手はまぼろし。愛しているのは毎日ケンカをしていたクラリク」
というハッピーエンドだと解釈する。

こんなこと、声を大にして言うほどのことではないかも知れないが、
「メールがとり結んだちょっと素敵な恋のお話」
を観たような気になってしまうので。

いや、どんな気になろうと観た人の自由なんですが、
少なくとも制作者は、
「メールだけで人間性が分かるはずがない」
と言っていると思う。

ここでこだわりたいのは、
「文通相手のポプキン(と言う偽名をクラリクは使っていた)と、クラリクという実体が最後に結びつき、ひとつになった」
のではなく、

「文通相手のポプキンは消滅し、クラリクという実体だけが残った」
ということ。

まあ正解がある話じゃなし、ひとつの解釈として聞き流していただければ幸いです。

『ユー・ガット・メール』はそのへん、どう解釈していたっけなあ。
でもあれは、大富豪が金に飽かして弱者を囲うみたいな話になっていたような気がする。

もう一本のリメイク『グッド・オールド・サマータイム』とあわせ、いつかもう一度観てみたい。

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関連リンク : エルンスト・ルビッチ監督作品(いちおう年代順です)
★★☆☆☆ 『牡蠣の王女』(1919・ドイツ)

★★★★★ 『花嫁人形』(1919・ドイツ)

★★★☆☆ 『デセプション』(1920・ドイツ)

★★★★☆ 『結婚哲学』(1924・アメリカ)

★★☆☆☆ 『ウィンダミア夫人の扇』(1925・アメリカ)

★★☆☆☆ 『山の王者』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 『ラブ・パレード』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 上質な時間、『モンテカルロ』(1930・アメリカ)

★★★☆☆ 『陽気な中尉さん』(1931・アメリカ)

★★★★☆ 『私の殺した男』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『君とひととき』(1932・アメリカ)

★★☆☆☆ 『極楽特急』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『生活の設計』(1933・アメリカ)

★★★☆☆ 『メリー・ウィドウ』(1934・アメリカ)

★★★★☆ 『天使』(1937・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『青髭八人目の妻』(1938・アメリカ)

★★★★★ 『ニノチカ』(1939・アメリカ)

★★★★☆ 『街角 桃色の店』(1940・アメリカ)

★★☆☆☆ 『淑女超特急』(1941・アメリカ)

★★★★★ 『生きるべきか死ぬべきか』(1942・アメリカ)

★★★★☆ 『天国は待ってくれる』(1943・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『ロイヤル・スキャンダル』『クルニー・ブラウン』『あのアーミン毛皮の貴婦人』

<書籍>

「ルビッチ・タッチ」ハーマン・G・ワインバーグ(著),宮本高晴(訳)

The Shop Around the Corner (映画.comより一部転載)

監督
エルンスト・ルビッチ

脚本
サムソン・ラファエルソン

原作 戯曲
ニコラウス・ラズロ

製作
エルンスト・ルビッチ

撮影
ウィリアム・H・ダニエルズ

キャスト
マーガレット・サラバン - Klara_Novak
ジェームズ・スチュワート - Alfred_Kralik
フランク・モーガン - Hugo_Matuschek
ジョゼフ・シルドクラウト - Ferenez_Vadas
サラ・ヘイドン - Flora
フェリックス・ブレサート - Pirovitch
ウィリアム・トレイシー - Pepi_Katona
イネズ・コートニー - Ilona
サラ・エドワーズ - Woman_Customer
エドウィン・マクスウェル - Docter
チャールズ・ハルトン - Detective
チャールズ・スミス - Rudy