これはエルンスト・ルビッチ監督作品の中でも異色作かも。
1回目に見た時は「なんだ、コメディじゃないんだ」という思いがあったので「フーン」で終わってしまったが、反戦映画モードに切り替えてあらためて観てみると、とても感動的な素晴らしい作品であることにようやく気づいた次第。

そうは言っても、ルビッチならではのくすぐりや笑いもふんだんにちりばめられている。
そのあたりのことをいくつか記しておきたい。

第一次世界大戦をフランス兵として戦ったポール(フィリップス・ホームズ)は、自分が殺したドイツ兵ウォルター(トム・ダグラス)のことが忘れられない。

終戦後、ポールはウォルターの両親のところへ謝罪に行く。
が、なかなか言い出せずにいるうちに、彼はウォルターのフランス居住時代の友人で、わざわざ墓参りに来てくれたのだと勘違いされる。

そしてウォルターの婚約者だったエルザ(ナンシー・キャロル)との間に恋も芽生え始める。

これには町中が大騒ぎ。
なにしろ「フランス」と聞くだけで、脊髄反射でドイツ人の体内にアドレナリンが充満するようなご時世。

怪しげなフランス人がドイツの町にいるだけでも目ざわりなのに、こともあろうに婚約者をフランス人に殺された娘と人目もはばからずに歩いてるのだから。

二人が散歩している間中、ベルの音が鳴り響く。
「リーン」「チーン」「カランコロン」…。
これは二人を見ようと、家々の窓やドアが開けられる時のベルの音なのだ。

時には煩わしい「世間の目」をなかなかユーモラスに表現するところにルビッチの人間愛を感じる。

それから洋品店の店主が面白い。
エルザがショーウインドウを覗いていると、抜け目なく外に出てきてセールスを始める。

「この服は4年は着られますよ。なんといっても流行を2年先取りしていますから」
…なんかうさん臭いな。

「値段は300ですが、あなたに免じて295.50にしましょう」
って、全然安くなっていない。

そしてエルザにそっと耳打ちする。
「大きい声では言えませんが、これ実はフランス製なんですよ」

口では何だかんだ言いながら、ちゃっかりフランスのいいとこ取りしてるんじゃん、ドイツ国民…このあたりの人情の機微、さすが分かってらっしゃるという感じ。

エルザはこのあと再び洋服を眺めに来る。

それを見逃さなかった洋品店の奥さん、すかさず旦那に報告すると、何と旦那は値札を「300」から「325」に付け替えるのであった。
なにこの息の合った夫婦の連係プレイは。

しかも恋するエルザは買っちゃうし!

…以上は、ほんの息抜き部分で、この映画が言わんとしていることとはあまり関係がない。

テーマは「民族間の対立を人間は乗り越えられるのか」ということと思うが…いや、そうじゃないな。

この映画のテーマは、
「意志さえあれば民族間の対立は乗り越えられる」
だと思いたい。

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関連リンク : エルンスト・ルビッチ監督作品(いちおう年代順です)
★★☆☆☆ 『牡蠣の王女』(1919・ドイツ)

★★★★★ 『花嫁人形』(1919・ドイツ)

★★★☆☆ 『デセプション』(1920・ドイツ)

★★★★☆ 『結婚哲学』(1924・アメリカ)

★★☆☆☆ 『ウィンダミア夫人の扇』(1925・アメリカ)

★★☆☆☆ 『山の王者』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 『ラブ・パレード』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 上質な時間、『モンテカルロ』(1930・アメリカ)

★★★☆☆ 『陽気な中尉さん』(1931・アメリカ)

★★★★☆ 『私の殺した男』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『君とひととき』(1932・アメリカ)

★★☆☆☆ 『極楽特急』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『生活の設計』(1933・アメリカ)

★★★☆☆ 『メリー・ウィドウ』(1934・アメリカ)

★★★★☆ 『天使』(1937・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『青髭八人目の妻』(1938・アメリカ)

★★★★★ 『ニノチカ』(1939・アメリカ)

★★★★☆ 『街角 桃色の店』(1940・アメリカ)

★★☆☆☆ 『淑女超特急』(1941・アメリカ)

★★★★★ 『生きるべきか死ぬべきか』(1942・アメリカ)

★★★★☆ 『天国は待ってくれる』(1943・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『ロイヤル・スキャンダル』『クルニー・ブラウン』『あのアーミン毛皮の貴婦人』

<書籍>

「ルビッチ・タッチ」ハーマン・G・ワインバーグ(著),宮本高晴(訳)

The Man I Killed / /Broken Lullaby (Movie Walkerより一部転載)

監督 エルンスト・ルビッチ
脚本 レジノルド・バークレー
脚色 サムソン・ラファエルソン、エルネスト・バイダ
原作戯曲 モウリス・ロスタン
撮影 ビクター・ミルナー

キャスト
Dr._Holderlin ライオネル・バリモア
Elsa ナンシー・キャロル
Paul フィリップス・ホームス
Mrs._Holderlin ルイズ・カーター
Schultz ルシアン・リトルフィールド
Walter_Holderlin トム・ダグラス
Anna ザス・ピッツ
Priest フランク・シェリダン
Bresslauer GeorgeBickel
Mrs._Miller エマ・ダン
Fritz'_Father レジナルド・パーシュ