ルビッチ映画が、私なんかの手に負える代物ではないことは百も承知で書いてみる。

ジョセフ・ストック教授とミッツィはかなり年の離れた夫婦。

すでに心は冷え切っていて、ストック教授は若妻ミッツィの浮気のシッポをつかんで別れたがっている。

ミッツィの友人シャーロットのほうは、旦那のフランツ医師と上手くいっている。

二人のアツアツぶりに嫉妬したのか、それとも悪女の血が騒いだのか、ミッツィはフランツを落としにかかる。

まずは仮病を装い、フランツに往診に来てもらおうとするミッツィ。

ミッツィと電話で話すシャーロットを見て、こっそりほくそ笑むフランツ。
おやおや、愛妻家に見えたフランツにも、浮気の虫が潜んでいるようだ。

…ここでルビッチ・マジック炸裂。

フランツは、妻のシャーロットに対しては、往診に行きたくなさそうな素振りを見せる。
だがシャーロットのほうからしてみれば、親友ミッツィのために是が非でも行ってもらいたい。
夫を叱咤する心優しきシャーロット。

かくして、妻が旦那の浮気を、知らずに後押しするという構図が出来上がる。
…さすがルビッチ、じつに鮮やかな手腕だ。

ミッツィはばっちりメイクして、さらに酒の用意もし、手ぐすね引いて待ち構えている。
だが根は真面目な愛妻家のフランツは誘いに乗らなかった。

フランツはこのあと、
「自分はあなたを治療するのに適任ではない」
という手紙をミッツィに送る。

…ここは見方によっては、ミッツィの旦那のストック教授か、あるいは教授に頼まれた興信所が、フランツの名をかたって手紙を出したという解釈も可能だ。

しかしストック教授の立場からしたら、ミッツィとフランツ医師が不倫をしてくれたら万々歳なわけだ。
慰謝料を払わずに別れられるし。

だからフランツ医師とミッツィのつながりを断つような真似はしないと思うのだけれど…。

だが結局ミッツィはこの手紙をもってフランツ医師のもとを尋ねるわけで。
そこまで読んだ上でのストック教授の一手だとしたら、恐ろしいほどにミッツィを心理操作できていることになる。

ここで新キャラクターが登場。
フランツの共同経営者ミュラーである。

彼は、フランツの妻シャーロットに横恋慕している。
まあ、顔を見るだけで満足という程度のようだ。

ミュラー医師は毎朝、フランツ夫妻の自宅まで迎えに来て、そこから旦那と二人で医院へ通っている。

…ここでもルビッチの仕掛けが施される。

シャーロットが二階のベランダで花を摘んでいる。
それを下からニコニコ見守っているミュラー医師。
シャーロットは夫に持たせるつもりで花を摘んでいるのだが。

このとき彼女は一輪だけ落っことしてしまう。
すかさず拾い上げるミュラー。
彼はそれをシャーロットからの好意と受けとめたようだ。
なかなか幸せなヤツなのだ。

さらにシャーロットから花を受け取ったフランツは、落としたのに気づかないまま出かけてしまう。

二人が出かけたあと、部屋の床に無残に投げ捨てられた(ように見える)花を見て、シャーロットの表情は曇る。

…さあ、これでミッツィに引き続き、シャーロットもフランツ&ミュラーの仕事場へ行く用事が出来上がったわけだ。

フランツの仕事場に乗り込んできたミッツィは手紙を見せた後、ビリビリに破く。
あんたとの縁を切るもんですか、の意思表示か。

ミッツィがフランツに強引に抱きついた…瞬間にミュラーが入ってきた!

しかしミュラーの側からは、女性の顔が見えない。
てっきり奥さんのシャーロットだと思い込んで声をかける。

「そんなに奥さんに愛されて、幸せなヤツだ」

フランツもとっさに「そうなんだよ」なんて顔をしてごまかす。

ミュラーがオフィスに戻ると、なんとそこにはシャーロットが!
ミュラーの頭の中は「???」で一杯になる。

じゃあ、さっきフランツと抱き合っていた女性は?

この時点で、ミュラーにとってフランツは、
「妻に隠れて浮気をしているひどい夫」になってしまった。

それならば自分がシャーロットに優しくしてあげなければ。
それに、自分のデスクの上の、シャーロットから“贈られた"バラの花を見て、シャーロットも微笑んでくれたようだし。
けっこう向こうもその気があるんじゃないの?

こんな具合に「思い込み」や「勘違い」や「策略」が入り乱れ、ますます事態はこんがらがっていく。

…と分かったふうなことを書いているが、本当はぜんぜん分かっちゃいない。

「思い込み」、「勘違い」とひと言で片付けられるような単純なものではないのだ、ルビッチの場合は。

「勘違い」ひとつとっても、おそらく数種類から数十種類の「勘違い」があって、ルビッチの中で綺麗に体系付け、分類がなされていたと思われる。

今の私のアタマでは、このあたりが精一杯のようだ。

今後もさらに観賞を続け、また何か気づきがあれば記したいと思う。
ではでは。

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関連リンク : エルンスト・ルビッチ監督作品(いちおう年代順です)
★★☆☆☆ 『牡蠣の王女』(1919・ドイツ)

★★★★★ 『花嫁人形』(1919・ドイツ)

★★★☆☆ 『デセプション』(1920・ドイツ)

★★★★☆ 『結婚哲学』(1924・アメリカ)

★★☆☆☆ 『ウィンダミア夫人の扇』(1925・アメリカ)

★★☆☆☆ 『山の王者』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 『ラブ・パレード』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 上質な時間、『モンテカルロ』(1930・アメリカ)

★★★☆☆ 『陽気な中尉さん』(1931・アメリカ)

★★★★☆ 『私の殺した男』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『君とひととき』(1932・アメリカ)

★★☆☆☆ 『極楽特急』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『生活の設計』(1933・アメリカ)

★★★☆☆ 『メリー・ウィドウ』(1934・アメリカ)

★★★★☆ 『天使』(1937・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『青髭八人目の妻』(1938・アメリカ)

★★★★★ 『ニノチカ』(1939・アメリカ)

★★★★☆ 『街角 桃色の店』(1940・アメリカ)

★★☆☆☆ 『淑女超特急』(1941・アメリカ)

★★★★★ 『生きるべきか死ぬべきか』(1942・アメリカ)

★★★★☆ 『天国は待ってくれる』(1943・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『ロイヤル・スキャンダル』『クルニー・ブラウン』『あのアーミン毛皮の貴婦人』

<書籍>

「ルビッチ・タッチ」ハーマン・G・ワインバーグ(著),宮本高晴(訳)

The Marriage Circle (allcinemaより一部転載)

原作:エルンスト・ルビッチ
原作:ロタール・シュミット
脚本:パウル・バーン
撮影:チャールズ・J・バン・エーガー

出演:
アドルフ・マンジュー
マリー・プレボー
フローレンス・ビダー
モンテ・ブルー