タイトルを聞いてもどんな内容の映画なのか、とんと見当がつかなかった『マダムと女房』をようやく見た。

洋風でモダンな奥さんが「マダム」で、昔ながらの日本的な奥さんが「女房」ってことなのね。
その「女房」のほうを演じるのが田中絹代。

ダンナが隣ん家のマダムに鼻の下を伸ばしているのを見て、焼きもちを焼くところが可愛い。
またその焼き方が凝っている。

隣の部屋からガーガーと音がするので、ダンナが何事かと思って覗いてみると、妻の絹代が足踏み式のミシンを乱暴に踏んでいるのだ。
なんとまあ日本初のトーキーにふさわしいしゃれた演出だろうか。

本作と同じ五所平之助監督&田中絹代のコンビで作られた
『煙突の見える場所』も、『マダム〜』に負けず劣らず、音に凝った、そして見応えたっぷりな映画だった。
あの完成度の高さは『マダム〜』があってこそだったのだなあと、今になって思う。

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『煙突の見える場所』(1953・日本)だけでご飯3杯はイケる

佐藤忠男・著「お化け煙突の世界 五所平之助の人と仕事」
の中で、監督本人が当時を回想している。
誠に勝手ながら引用させていただいた。

お化け煙突の世界―映画監督五所平之助の人と仕事 (1977年)

なお、日本刀で斬りこまれる「城戸さん」というのは、当時の松竹蒲田撮影所長で、後に社長となる城戸四郎のことです。
土橋式トーキーの土橋兄弟は、道頓堀の松竹座の楽士さんなのね。だから大変なことなのよ、二人のトーキーが成功したら楽士さんはみんなクビですからね。
北村小松さんのシナリオは、最初「隣の雑音」という題だったの。それがホーム・ドラマ的なものにしたいということで「マダムと女房」になった。全部、同時録音で、音が切れないわけ。田園調布の野っ原で、プカプカドンドンやりながらカメラ廻すんですけど、私、サイレント時代からカットはこまかいほうでしたので、これにいちばん悩みましたね。それで思いついたのが、カメラを何台もつかって切りかえをやる方法。いまのテレビですね。結局、四台使ってやりました。
「本番」という言葉は、そのときできた言葉なんですよ。それから「ずり下げ」とか「ずり上げ」もね。音を少しずり上げていくと、前にかぶさりますから、対話の調子がいいんですよ。ピッピッと切っちゃうとカットが変わるところから発声になりますから。音楽は宮田東峰さんがやってくれました。楽士さんは誰れも応援してくれませんから、友だちだった宮田東峰ハーモニカ・バンドにたのんで、彼が映画の、音楽監督第一号ですよ。正確な記録はありませんが、準備から完成まで半年くらいでしょう。実際の撮影は一ヵ月くらいですが。とにかく初めてのトーキーということで、弁士が城戸さんの家へ日本刀を抜いて斬りこんだり、あたしもにらまれて、浅草に来たら、たたっ殺してやるなんて、こわい話がありましたよ。

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<関連リンク : 五所平之助監督作品> (年代順)
★★★☆☆ 『マダムと女房』(1931・日本)…悪くないですね…フフ…

★★☆☆☆ もう『恋の花咲く 伊豆の踊子』(1933・日本)なんて言わないよ絶対

★★★★☆ 『朧夜の女』(1936・日本)に日本の良心を見た

★★★★☆ 『伊豆の娘たち』(1945・日本)のララバイ

★★★★☆ 『煙突の見える場所』(1953・日本)だけでご飯3杯はイケる

★☆☆☆☆ 鳴かぬなら鳴くまで待とう『黄色いからす』(1957・日本)

A Madam and My Wife (allcinemaより一部転載)

監督:五所平之助
原作:北村小松
脚色:北村小松
撮影:水谷至広 星野斉 山田吉男
作詞:サトウ・ハチロー
作曲:高階哲夫 島田晴誉
助監督:富岡敦夫 蛭川伊勢夫

出演:
渡辺篤 - 劇作家・芝野新作
田中絹代 - その女房
市村美津子 - 娘テル子
伊達里子 - 隣のマダム
横尾泥海男 - 画家
吉谷久雄 - 新作の友人
月田一郎 - 新作の友人
日守新一 - 見知らぬ男
小林十九二 - 音楽家
関時男 - 音楽家
坂本武 - 運転手
井上雪子 - 隣の少女
帝国ジャズバンド
宮田ハーモニカバンド