現在は外国で悠々自適の生活をしているという噂の森博嗣先生。
今年(2015年)の5月に東京の某所で講演会があるそうだ。
一応申し込んでみたが、抽選はずれるだろうなあ。

「小説家になりたかったら小説を読むな」
という衝撃の発言から始まる本書。
次から次へと撃ち出される斬新な言葉が、こちらのボケボケした脳細胞を射貫いていく。

以前、森博嗣の日記シリーズを読んでいて驚いたことがある。
当時、森先生がまだ某国率大学の准教授をされていたころの日記と思う。
「今日は5万文字書きました」
というさりげない一文だ。

いやいや、5万文字と言ったらあなた、かなり速く打てる人でも休み無しで6時間以上はかかりますよ。
ただキーを打ち続けるだけでもツラいのに、森先生はそのスピードで創作活動をされているのだ。

タイピングのスピードは別にしても、もし仮にレコーダーを回して口述するとしても、6時間のあいだ発想を途切れさせることなく、話し続けられる人がどれだけいるだろうか。

しかも森先生はマンガ創作においてもプロはだしだという。
その腕前は、あの山本直樹がアマ時代に森先生(当時は学生?)のマンガを模写していたというくらいだ。

その山本直樹が「毎日は笑わない工学博士たち」という森先生のエッセイで「すべてがFになる」と「有限と微小のパン」のイメージスケッチ風マンガを各2ページ描いている。
これがじつに森ミステリの雰囲気を捕らえていて、抜群に良い味を出している。

フジテレビもこれを参考にしていれば、視聴率もあそこまで大惨敗しなかったかも。
私も期待して見始めたクチだが、麻賀田四季博士が私の脳内イメージとあまりにも乖離していて「すべてがフイになる」前にテレビを消してしまった。
ネットでの炎上っぷりを見る限り、その選択は正しかったようね。

……ちょっと麻賀多四季になりかかってしまったわ。
壊れかけてきたのでこのへんで。

では最後に一句。。。

一度でいいから見てみたい 博嗣が ミステリ語るとこ

どうか講演会のチケット、当たりますようにっ!

以下、引用です。

大事なことは、「こうすれば」という具体的なノウハウの数々ではなく、ただ「自分はこれを仕事にする」という「姿勢」である。その一点さえ揺るがなければなんとかなる、と僕は思っている。ようするに、「小説を書いて、それを職業にする」という決意があれば、ノウハウなどはほとんど無用なのだ。(p7)

そういうわけで、処女作の執筆中に、少なくともシリーズとして何作か書こうと決めた。頭の中で展開した世界をアウトプットしたい、という欲求からだ。しかし、そう考えた理由がもう一つある。それは、その後の僕のやり方の柱になった指向である。すなわち、「ホームランを打つよりも、ヒットを多数打つ方が楽だ」ということ。自分の創作がマイナだと認識していたので、そんなに売れるはずがないことは容易に想像がつく。であれば、作品を多数書いて数を稼げば良いではないか。その方が手法としてもはるかに簡単なのでは?(p34)

毎日せいぜい2時間くらいしか執筆時間が取れなかったので、1作を書き上げるのに、2週間ほどかかった。しかも、1作書いたあとには少し休憩が必要だし、別のこともしたくなる。だから、自分にたいして、1ヶ月に1作ずつ書いていこう、と緩やかなスケジュールを立て、そのとおり実行した。結果的に5ヶ月後には5作が書き上がっていた。(p41)

しかし、ここで僕が述べたいのは、「人間というのは、自分が望んでいる以上のものには絶対にならない」ということである。「デビューができればそれで充分だ」と考えている人は、デビューして消えていくだろう。「○○賞作家になってやる」と思わない人は、そのとおり○○賞作家にはならない。芸術であれ、ビジネスであれ、この法則は適用できる。何故なら、人間の行為というのは、自分の価値観と周囲の要求の鬩ぎ合いに常に晒され、こうしたときの一つ一つの細かい判断によって道筋が少しずつ決まっていくからだ。本人が望まない方向へは、けっして進まない。(p66)

驚いたことに、この業界では、作家が締め切りを守らないのが日常だ、といった風潮がある。それを許す体質も間違っているし、それに甘える精神も腐敗している。おそらく、「芸術というのは仕事ではない」という主張なのだろうけれど、そういうことをいうのは二流の芸術家に決まっている。
もし、あなたが小説家を目指して頑張っているのならば、締め切りを守る誠実な作家になってほしい。それにはまず自分で立てた予定を守ること。その習慣をつけることが大事だ。1度でも破れば、10回守り続けてきたことが無になる。信頼というのは、築くに難く、崩れるに易いもの。1回くらいは、と考えているとしたら、それは信頼の意味がわかっていない不誠実な人間である。どんな仕事をしても中途半端になるだろう。根本的に考えを改めなければ、今以上の状況は望めない。(p89)

では、作家としてはどうすれば良いだろうか?
簡単だ。沢山売れること、ベストセラになることを狙わず、地道に作品を発表する。これだけである。10万部売れる本を作ることは非常に難しい。しかし、1万部売れる本を10冊出すことなら、それよりは容易だ。5000部売れる作品を20作書くことなら、さらにずっとやりやすい。結局、大きなものを狙わず、真面目に自分の仕事をすれば良い。そうしていれば、なにかのチャンスが巡ってくることもあるだろう。そして、作品の数が多いほど、そのチャンスは増えるのである。(p113)

自分の視点を磨くには、自然を意識して観察すること、さらには、それを描写する練習をするのが良いと思う(ようするに文章や絵でスケッチすることである)。自然を見ろというのは、映画や漫画などの人工の創作物を見るな、という意味だ。創作物には、他者の視点が既に入っているため、広い自由な視野の確保が阻害される。狭いところから見る癖がつくと、ますます細かいものに焦点が合い、ミクロな観察眼は養われる(オタクの目である)けれど、創作者としてはスケール(あるいは可能性)が小さくなる。(p169)

的確ではないが、わかりやすい些細な実例を挙げておこう。
ドアが閉まったときの音は「バタン」だろうか。あの音がそう聞こえる人は、「バタンとドアが閉まった」と書くだろう。星空は何故「綺麗」なのだろうか。子供のときに大人にそう教えられたから? 子供は「可愛い」ものだろうか。それは自分から発想したこと? いつどこでそう思ったのか?(p171)

少し書くたびに、すぐ手直しをする必要はまったくない。むしろしない方がよい。そんな手直しを繰り返していると、先へ進まない。一気に最後まで書くべきだ。最後まで書かなければ、作品の全体像が見えない。バランスを取るには、まず全体が一応の完成形をとらなければならないのだ。たとえば、第1章だけを書いて、そこを徹底的に直しても無駄が多い。(p184)

読書をする人は、多数読むことを誇りにする癖があるけれど、あれは無意味だと僕は思う。大切なのは、読んでいるときに頭に思い描くイメージの情報量であって、目がなぞった文字数ではない。速読などもまったくナンセンスだ。時間をかけてゆっくり読んだ方がイメージが膨らみ、創作の役に立つ。速読というのは、早回しでゴルフや野球を見てるようなもので、それでゲームの結果がわかるだけだ。一番大切なもの、本質が失われている。ゆっくり大切に読んで、そのリズムのまま自分の創作に切り換えてはどうか。(p191)

小説家への道は、ただただ書くこと。それ以外にない。それが楽しいとか、苦しいとか、そんな問題ではない。小説で何がいいたいのかも、どう書けば良いのかも、どうだって良い。なんでもありだし、どうやっても良いから、とにかく書く。書くことで何が得られるのか、など二の次だ。得られることもあれば、失うこともある。ビジネスとして書くならば、できれば原稿料なり印税が得られる状況を目指すけれど、それも、書いている最中の意識にはない。ただ、自分の世界を創り、その世界の中で見たものを、素直に記すだけである。(p192)

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目次 CONTENTS

まえがき

1章 小説家になった経緯と戦略

何故、小説を書き始めたのか

小説家にはなりやすい?

家族に読んでもらう

頭の中の世界をアウトプット

募集要項に驚く

シリーズものの創作

出版社からの連絡

最初の本が出る

小説はメジャなものではない

出版界の認識のずれ

プ口のもの書きの条件

意味が通じるものを書く

2章 小説家になったあとの心構え

続かない理由その1 - 最初の作品を超えられない

続かない理由その2 - 読者の慣れ

続かない理由その3 - デビュー後のビジョンがない

ホームページを作る

ユーザの感想を分析する

目指すのは「新しさ」

謎をちりばめる

読者の積極性に期待する

読者の意見への接し方

貶した書評の効能

ネットを通じた批判

予定を作る

3章 出版界の問題と将来

出版社は協同組合

出版社の周辺

小説とノンフィクション

小説の流通の未来

何故、締切にルーズなのか

当たり前のビジネスが成立しない

電子出版の可能性

本と宣伝

地道に創作する

秘訣も秘策もない

小説は自由なもの

4章 創作というビジネスの展望

気になる楽観主義

生産者は生き残る

できるだけでは仕事にならない

「ウリ」を作る

小説家に必要な姿勢

ネット書評の特性

小説にテーマは要らない

ファンとの距離感

ニーズは新たに作る

編集者の古い体質

一人の人間が創り出す凄さ

小説は滅びない

5章 小説執筆のディテール

芸術は奇跡である

文体は、必要ない

システムの存在感

文章のシェイプアップ

視点が重要なポイント

自然を自分の目で見る

思い浮かぶものを文章に落とす

メモは作らない

会話のリアルさ

シーンに必要なもの

難しいのはラスト

原稿の手直し

執筆期間と非執筆期間

タイトルを決める

進むうちに道は開ける

あとがき