「ねえ!キスしてよ」が、いつまで待ってもテレビで放映されない。
「アパートの鍵貸します」「サンセット大通り」などは始終やっているのに。
業を煮やしてDVDを買ってしまった。
なんとこれがめちゃめちゃ面白い!

あらすじを簡単に説明すると、

作詞作曲家コンビとして一発当てようともくろんでいる田舎町のおやじ、オービルとバーニー。
二人のところに、たまたま通りかかった大スターが一晩泊まることになる。

というか無理やりそうなるように仕向けたんだけど。
何しろ二人にとっては千載一遇のチャンスだ。

スターは無類の女好きときている。
そこで売春宿からポリーを借りてきて、オービルの妻のふりをさせ、スターにあてがおうという作戦を立てるのだが……。
それにはまずオービルの本当の奥さんであるゼルダに外出してもらわないといけない。
奥さん大好きのオービルは泣く泣くゼルダを怒らせ、追い出すことに成功する。

オービルと契約妻(?)のポリーはスターを接待しながら、自作の曲を聴かせようとあの手この手を仕掛ける。
しかしスターは音楽なんかそっちのけでポリーにべったり。

このスターというのが傍若無人の、かなりなゲス野郎。
情が深い、を通り越して異常なほど嫉妬深いオービルは、いつの間にかポリーを本当の妻のように思うようになっていて
「オレのワイフになにしやがる!」
と、ついに怒り爆発、スターを追い出してしまう。

ここから一気にはしょるが、なんとスターとゼルダが一夜を共にすることになる。
これだけを書くと、ひどい妻と思われるだろう。

ところが不思議なことに、この不倫にはまったくといっていいほど不快感が伴わないのだ。
まさにワイルダー・マジック。

そう納得させられる理由はいくつかある。
中でも極めつけは、オービルが売春婦ポリーを本当の妻のように扱った、ということだ。
オービルとポリーは肉体関係こそ結ばなかったものの、心では完全に「不倫」していた。

一方のゼルダは体こそ許したが心は許さなかった。

そもそもゼルダがなぜスターを受け入れたかというと、さんざんオービルの自作曲を聴かされたスターがついついそのメロディーを口ずさんだからだ。
賢妻ゼルダはそれを聴いたとき、なぜ夫が自分を追い出そうとしたのかを瞬時に理解する。

そういうことならば愛する夫オービルのために、と内助の功を発揮して、夫の曲をもっとスターに印象づけようとかいがいしい努力をするのだ。
何とも素敵な奥さんではないか。

さらにこの映画の良いところは、ディーン・マーティン演じるこのスターさえも、最後には好印象を抱かせてくれるところだ。

ゼルダはスターとやり合う中で、
「あなたはもう時代遅れで、人気も先細りよ」
と言い放つ。

スターは怒るかと思いきや、なんと
「傷つけるのが上手だな」
と落ちこんでしまうのだ。

地球は自分のために回っていると言わんばかりのスターも、フタを開けてみればなんてことはない老いと人気の翳りにおびえる、傷つきやすい一人の人間だった。
オービル&バーニーの作詞作曲コンビも、スターの前ではこびへつらうが、スターがいないところではボロカスにこき下ろす。
まさに、いいときばかりの芸能界というわけだ。

喧噪の一夜が終わり、空が白んできて、むなしく点滅を繰り返す売春宿のネオン。
わびしくはためく洗濯物。
そういったものがスターの心情と重なり、胸が締め付けられる。
ああ、そうか。スターもポリーも結局は町の辺境者なんだ、と気づかされる瞬間……。

そういったスパイスを加味しつつ、最後には全員がハッピーになるという、とても気持ちの良いエンディングが用意されている。

今まで個人的なワイルダー最高傑作は「情婦」だったが、今日からは「ねえ!キスしてよ」と相成った。

それから50代以上の日本人なら誰でも知っているのでは?という人が出ていた。
たぶん日本においてはディーン・マーチンより有名だと思う。

なんと「奥さまは魔女」の、あの早口の隣のおばさん、アリス・ピアースが出ているのだ!
本作でもチョイ役ながら強烈な個性を発揮している。

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Kiss Me Stupid

監督
ビリー・ワイルダー

出演
ディーン・マーティン
レイ・ウォルストン
キム・ノバク
フェリシア・ファー
クリフ・オズモンド
ジョン・フィードラー
アリス・ピアース