それに淀川長治がキング・ビダーを手放しで褒めていたこともあり、これを機会に観てみようかと。

ちなみに
映画読本・清水宏―即興するポエジー、蘇る「超映画伝説」』からその部分を引用してみる。

クライマックスの水利作業は、明らかにキング・ビダーの『麦秋』の模倣だがお手本に較べると見劣りするのは否定できない。

とある。
私の見解は逆だな。『みかへりの塔』のほうが生命力に溢れていると思う。
子どもたちの喜ぶさまと水しぶきが相まって画面一杯にキラキラ感が充ち満ちている。
さらに男児と女児が泥んこになってじゃれあっているうちケンカになっちゃうところなども清水らしくてよい。

まあ、私の清水宏びいきもたいがいにしよう。
だいいち尊敬されるべきはやはり本家のほうだ。

それで本家の『麦秋』なんだけど、これで『むぎのあき』と読めってことらしい。そんなこと言われてもなあ……。

映画の印象をひと言で言うと、
すごい熱気だなと。
クライマックスの水路工事。昼夜を分かたず振り下ろされるツルハシの「ザッザッザッザ……」という音。
これがやりたくてたまらなかったんだろうなあ。
生きる道を切り開く音。
命を繋いでくれる音。
これ以上に尊い音が存在するだろうか。

だが前半部分に難があるため、評価を下げざるを得なかった。
いちばんのネックは競売のシーン。
主人公たちが手塩にかけてきた農地が競りにかけられる。
ここで村人達は高い値をつけようとする人間に圧力をかけて競売に参加させないようにする。

これは明らかに恫喝である。さすがに看過できない。
こんなめちゃくちゃがまかり通るような社会は破滅が目に見えている。
なにかもっと主人公たちを素直に応援したくなるようシナリオだったら、と残念でならない。

あと5キロに及ぶ水路を作るというけれど、その土地はいったい誰のものなのかとか、まあいろいろ。
こんなアラ探しばかりしていないで、監督が訴えようとしているテーマを素直に受けとろうと心掛けるのが理想的な鑑賞者の姿なのかも知れないが、なかなか……。

ただ、この作品がキング・ビダーの真骨頂というわけでもないようだ。
淀川長治が推していたのは『シナラ』『チャンプ』『ハレルヤ』『ステラ・ダラス』『ビッグ・パレード』『街の風景』
あたり。淀川さんが薦めるのだからきっと面白いはず。
それらを観た後で、あらためてキング・ビダーを語りたいと思う。

あらすじ(ネタバレあり)

ジョン(トム・キーン)は失業中でその日の食べ物にも事欠いている。
叔父に助けを求めると、抵当で手に入れた荒れ地をやるから農業をやってみてはどうかと言われる。
妻マリー(カレン・モーリー)の後押しもあり、ジョンたちはさっそくその地へ移り住むことに決める。

翌日、初めての農作業開始。ところが地面が固くてシャベルが入らない。途方に暮れるジョン。
ふと柵の外を見ると車がエンコしている。
車の持ち主の名はクリス(ジョン・クオウルン)と言った。
話してみると彼も農夫で仕事を探しているという。
ジョンが助けを乞うと、餅は餅屋、みるみる畑が耕されていく。
このことがきっかけでクリスも一緒に働くことになった。

一人に協力してもらったらこれだけのことができたということは、もっと沢山の人々を集めたらもっと凄いことができるんじゃないか。
そう考えたジョンは道に立て札を立てる。
「美しい農園で、協力して暮らそう。家賃なし」
すると予想以上に沢山の人間が集まってきた。
ジョンはすべての人々を受け入れることにした。

共同生活が始まった。
それぞれが特技を活かし、助け合いの精神をもって楽しく働いた。
荒れ地は肥沃な農地に生まれ変わり、やがて作物が芽を出した。
彼らは神に感謝を捧げた。

保安官がやって来た。この土地が競売にかけられるという。
ほとんど現金を持っていないジョンたちは途方に暮れたが、他の入札者に圧力をかけるという方法で、タダ同然で土地を正式に自分たちのものにすることができた。

ある雨の夜、何となく危険な香りのする女サリー(バーバラ・ペッパー)が迷い込んできた。
夫とドライブ中、道に迷ったのだという。
夫は車の中で死んでいた。
女は村で暮らすようになった。

村は困窮し始め、このままでは立ちゆかなくなる怖れが出てきた。
そんなときクリスは、村の武闘派ルイ(アディスン・リチャーズ)から一枚のチラシを見せられる。
それはお尋ね者の告知ポスターで、なんとルイは500ドルの賞金首だったのだ。
自分を警察に売れというルイ。
そんなことできるかとチラシを破くクリス。カッコいい!

次にルイはサリーに声をかけた。
今度は理由を話さず、車で警察に送ってくれとだけ話した。
言われたとおりにするサリー。
それきりルイは帰ってこなかった。

500ドルのおかげで村は一時的に潤った。
だが雨がまったく降らないのが気がかりだ。
その頃、ジョンとマリー夫婦の間はぎくしゃくし始めていた。
ジョンがサリーに惹かれはじめていたのだ。

険悪な空気が村を包みだした。
あと数日のうちに雨が降らないと作物は全滅してしまう。
しかし為す術が思いつかない。
ジョンは村を捨ててサリーと夜逃げをした。

道中、ルイの生き霊が現われ、ジョンを引き止めた。
車をとめるジョン。村を振り返ると水車小屋の水車が回っている。
それは川に水が流れているという証しだ。
農地から五キロ先にある川まで水路を作れば作物は救われる。
そう考えたジョンは一人で村へ引き返した。

真夜中にもかかわらず村人達をたたき起こすジョン。
水路をつくる計画を発表する。
だが人心はすでにジョンから離れていた。誰ひとり首を縦に振らない。
しかしクリスだけはやってみようと言ってくれた。
それをきっかけに一人、また一人と協力者が現われ、結局全員で水路工事に取り組むことになった。

彼らはひたすらツルハシを振り続けた。昼も夜も。
倒れる者も出たが、とうとう5日目に水路が繋がった。
勢いよく流れ出す水。ところどころ決壊したが、そのたびに男たちが体を張って防ぎ、修復した。

ついに畑まで水が達し、干上がった土地を潤わせ始める。
喜びを爆発させる村人たち。
その年が豊作だったことは言うまでもない。

参考リンク ;

麦秋 (1934年の映画) - Wikipedia

麦秋(1934) | Movie Walker

麦秋(1934) : 作品情報 - 映画.com
_____________

Our Dairy Bread

監督
キング・ビダー

脚本
エリザベス・ヒル

原作
キング・ビダー

製作
キング・ビダー

撮影
ロバート・プランク

キャスト
トム・キーン (ジョン)
カレン・モーリー (マリー)
ジョン・クオウルン (クリス)
バーバラ・ペッパー (サリー)
アディスン・リチャーズ (ルイ)

麦秋 [DVD]<br