エルンスト・ルビッチ監督といえば、ビリー・ワイルダーのお師匠さん。
ワイルダーの事務所には「ルビッチならどうする?」と書かれた額がかけてあったそうだ。

ワイルダーの『アパートの鍵貸します』の中のワンシーン、テニスラケットでパスタのお湯切りというアイデアは一度観たら忘れられないし、それだけで充分成立している素晴らしい演出だけれど、ルビッチならさらに手間暇をかけていたのではないかという気がする。

洗練の代名詞のような人について語ること自体すでにヤボの極みなんだが、ルビッチ・タッチらしきシーンを紹介してみる。
何とぞ寛大な心で聞き流してやって下さい。

シルバニアという小国の武官アルフレッド(モーリス・シュバリエ)は、フランスの大使館勤めをいいことに、パリで浮き名を流しまくっている。
この男、パリジェンヌだけでは飽き足らず、大使館長の奥さんにまで手を出したらしい。
で、祖国に強制送還(?)されることになった。
館長がアルフレッドを問い詰めているシーン、アルフレッドは後ろ手にガーターを隠し持っている。
するとどこからともなく犬がやって来て、そのガーターを咥えて去って行ってしまう。

まずここが笑えるのだけれど、これがオチじゃなく前振りだったというのが後にわかる。

アルフレッドがパリを離れることを召し使いのジャック(ルピノ・レイン)が大いに嘆いている。
彼はアルフレッドの浮気の片棒を担いでいる。二人はいいコンビだ。

そのジャックがアルフレッドの部屋を辞す時、さっきの犬がジャックに飛びつく。
これで「さっき犬がガーターを咥えていったのは偶然ではなくジャックが仕込んだのか」と気づく。だがこれさえも前振り。

アルフレッドはテラスに出て歌い出す(これは一応ミュージカル映画)。
「パリは素敵だ。パリは素晴らしい。ああ、パリは最高の街♪」
すると大使館の周りの建物から女たちが顔を出し、アルフレッドに別れを告げる。

次に召し使いのジャックが歌い始める。
今度は建物の窓からメイドたちがいっせいに顔を出す。
おお、ジャックもやることやってたんだなあ。
メイドたちが顔を引っ込めこれで終わりかと思いきや、なんと最後に犬たちが歌い出すのだ。
「オン、オン、オオン(ご主人さま、お名残惜しゅうございます)」と。
ジャックは犬にまで慕われていたのか!

いや待てよ……、なんで他人様の家の犬がジャックになついているのだ?
ああそうか、餌付けしたんだな。え? ということはこの界隈の女たちはみんな飼い犬に証拠隠滅を手伝ってもらわなければいけないようなことをしてたってことか!

……ここで断わっておかねばならないのは、アルフレッドとジャックが近隣のパリジェンヌたちとよろしくやっていたという事実はひとつも提示されていないということ。
すべては情況証拠に過ぎない。
婦人たちはただ愛想が良かっただけかも知れないし、犬たちはよくジャックからおやつをもらっていただけかも知れない。
しかしここはあえて艶っぽくとらえたいところ。
規制の厳しかった時代に、ルビッチら先達が編み出したソフト極まりないタッチ。
それを堪能できるのは、ある程度人生経験を重ねたわれわれ大人だけ。
この愉悦を味わわない手はない。

粋を解する(解したい!)大人のための映画。
しかも子どもも楽しめるように作ってあるところが二重にすごい。

えー、文字にするとやっぱり野暮ったいですね。でも映画はとてもスマートです。
それにしてもこれ、1929年の映画ですよ。犬が歌っているような音をつくるのも並大抵じゃなかったと思うんですよね。その苦労を感じさせないところがまた素晴らしいです。

あらすじ(ネタバレあり)

シルバニア小国は女王制をとっている。
女王ルイーズ(ジャネット・マクドナルド)は美しいにもかかわらず婿のきてがない。
女王の夫にはなんの権限も与えられないし、不自由きわまりない生活を強いられるからだ。
そこに現われたアルフレッド。二人はたちまち恋に落ち、結婚する。
しかし男としての張り合いのない日々に耐えかねたアルフレッドは離婚を決意、パリに行くことを告げる。ルイーズは今までのやり方を改めることを約束する。

……正直ちょっとルイーズが可哀相だったなあ。

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参考リンク

Lubitsch Touch

ラブ・パレード(1929): ごくらくしねま

エルンスト・ルビッチの『ラブ・パレード』は、ハリウッドがトーキー誕生後2年にしてミュージカルを完成した偉大なる記念碑である | ロリポブログ!


関連リンク : エルンスト・ルビッチ監督作品(いちおう年代順です)
★★☆☆☆ 『牡蠣の王女』(1919・ドイツ)

★★★★★ 『花嫁人形』(1919・ドイツ)

★★★☆☆ 『デセプション』(1920・ドイツ)

★★★★☆ 『結婚哲学』(1924・アメリカ)

★★☆☆☆ 『ウィンダミア夫人の扇』(1925・アメリカ)

★★☆☆☆ 『山の王者』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 『ラブ・パレード』(1929・アメリカ)

★★★☆☆ 上質な時間、『モンテカルロ』(1930・アメリカ)

★★★☆☆ 『陽気な中尉さん』(1931・アメリカ)

★★★★☆ 『私の殺した男』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『君とひととき』(1932・アメリカ)

★★☆☆☆ 『極楽特急』(1932・アメリカ)

★★★☆☆ 『生活の設計』(1933・アメリカ)

★★★☆☆ 『メリー・ウィドウ』(1934・アメリカ)

★★★★☆ 『天使』(1937・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『青髭八人目の妻』(1938・アメリカ)

★★★★★ 『ニノチカ』(1939・アメリカ)

★★★★☆ 『街角 桃色の店』(1940・アメリカ)

★★☆☆☆ 『淑女超特急』(1941・アメリカ)

★★★★★ 『生きるべきか死ぬべきか』(1942・アメリカ)

★★★★☆ 『天国は待ってくれる』(1943・アメリカ)

★☆☆☆☆ 『ロイヤル・スキャンダル』『クルニー・ブラウン』『あのアーミン毛皮の貴婦人』

<書籍>

「ルビッチ・タッチ」ハーマン・G・ワインバーグ(著),宮本高晴(訳)

The Love Parade

監督
エルンスト・ルビッチ

脚本
ガイ・ボルトン
エルネスト・バイダ

原作
ジュール・シャンセル
レオン・ザンロフ

製作
エルンスト・ルビッチ

製作総指揮
ジェシー・L・ラスキー
アドルフ・ズーカー

撮影
ビクター・ミルナー

編集
メリル・G・ホワイト

キャスト
モーリス・シュバリエ(アルフレッド・ルナール伯爵)
ジャネット・マクドナルド(ルイーズ女王)
ルピノ・レイン(ジャック)
リリアン・ロス(ルル)