2010年7月17日、FC東京からチェゼーナへの移籍セレモニーで
「世界一のサイドバックになって帰ってきます」と
長友選手が挨拶したとき、場内から大声援が送られました。

しかし、まさか本当に実現しかかるところまで
成長すると予想した人が(しかも1年たたないうちに!)
はたして何人いたでしょうか。

私ももちろん(?)「世界一とは何を世迷い言を」
と失笑したクチです。完全に間違っていました。すみません。
人間というのは、気持ちがすべてを決めていくんだなと
つくづく思い知らされました。

本書を読んで痛感したのが出会いの大切さです。

小学生時代、愛媛FCのセレクションに落とされて
中学でグレかかっていた長友少年を一生懸命に
立ち直らせようとした先生の存在がなかったら
今の長友選手はなかったかも知れません。

そして女手一つでずっと支えてくれた母親の愛。
そんなお母さんに、中学時代に一度だけ
暴力を振るったことが明かされています。

わざわざ書かないで済むことを、
あえて公にした長友選手の心情を思うと
熱いものがこみ上げてきます。

2010W杯選手たちの著書は何冊か出ていますが
どれもこれも素晴らしいですね。
素敵なハートの持ち主ばかりです。

本書も、長谷部誠選手の「心を整える。」同様、
印税はすべて東日本大震災で被災された方々へ
寄付されるそうです。

人生というのは努力次第でどうとでもなる、
そう信じさせてくれる一冊でした。

(以下、引用)

先生の言葉が耳に届いたとき、僕は母さんの顔を思い浮かべた。
毎日一生懸命働いて、しんどいのにいつも笑っている母さん。
泣きごとも愚痴も言わず3人の子どもたちのために
すごい頑張っている母さん。
西条に来てから、母さんがのんびり座っていたり、
ゆっくり寝ている姿を見たことがない。
僕が遊びへ逃げても小言ひとつ言わずに見守ってくれている母さん。
それだけ僕を信用し、期待してくれているということだ。
というのに、僕は嫌なことから逃げて、楽なことしかやってない。
「なにやってんねん」
情けなくて、腹立たしく、申し訳なくて、カッと身体が熱くなった。
涙が頬を伝っていた。一筋涙が流れると、もう止まらない。
声をあげて泣いた。

誰にも負けない武器が僕にはあった。
走力とスタミナだ。
それを磨くにはフィジカルを鍛える必要がある。
今までは身長が伸びることを期待し、
それを妨げると言われている筋力トレーニングは控えていた。
そもそも成長期にフィジカルを鍛えすぎると怪我をする恐れもある。
でも、誰もやらないのなら、あえて、
自分のストロングポイントを磨くために鍛えるべきだと考えた。

ハードな練習をしている運動部の生徒が
授業中に寝ることは特別なことではなかったし、
僕の教室でも寝ているクラスメイトはいた。
でも、僕は絶対に寝ないで頑張った。
母さんが必死で働いて授業料を払ってくれている。
そう思うと、寝ることなんて出来なかった。

これからどんな人生が待っていようとも、
今を頑張らなければ、明日はない。
今を頑張ることが出来れば、将来、頑張れる自分になれる。
それを中学時代に学んだ。

何時間もただただ走った中学時代。
寝る間も惜しんで筋トレに励んだ高校時代。
科学的な根拠など持たず、実直にメニューをこなし続けた日々は
闇雲に自分を追い込んだ時間だった。
「もっともっと」と自身を鍛えることしか、僕は知らなかったから。
でもそれが長友佑都だ。
プロになろうと、代表になろうと変わらない。
変わっちゃいけない自分の心の幹。
それが努力だ。

ときには背伸びをすることが、高い目標へ近づく力にもなる。
強がって見えたとしても、その前向きな気持ちが
悪い空気を消し去ることもある。
放つオーラが僕を取り囲む雰囲気を変え、
人との出会いや幸運を導くんだと思う。
だから僕は、いつもポジティブな気を放っている人間でいたい。

「初戦のカメルーン戦だけど、お前にエトーを見てもらいたい。
エトーが左でプレーしたら、そのときは右サイドバックで出場してもらう」
相手エースのマーク。その指示を聞き、僕は監督からの信頼を感じた。
岡田監督は直接選手に声をかけることが少ない監督だと思う。
僕自身はこのときが初めてだった。
W杯を前に「僕のことを信用してくれているんだ」
と思えたのは、大きな力になった。
このとき、監督からの指摘があったからこそ、
僕は自分のプレーに迷いを持つことなく、W杯へと向かえた。
厳しい非難の真っ只中に立たされていても、
自分の仕事に集中し、冷静さを失わず、W杯への準備に余念がない監督。
その信念の強さに感動した。

「世界一のサイドバックになる」
南アフリカから日本へ戻る飛行機の中で、僕はそう決意していた。
「W杯へ出場したくらいで」と笑われるかも知れない。
でもそんなことは関係ない。笑われたっていい。
大切なのは自分がそこへ向かうために進むこと。
目標までの道のりを逆算し、小さな課題をひとつひとつクリアーしながら、
前進していけば、必ず成長できる。その道のりが重要なんだ。

1年前なら「スゲー、トッティだよ」と感じたかもしれない。
でも今は同じ舞台に立つ選手だ。感動している場合じゃない。
トッティが素晴らしい選手だということは理解しているけれど、
ここでビビっている場合じゃない。
少しでも「スゲーよ」なんて気持ちになったら、
世界一のサイドバックにはなれない。
「来いよ! どんどん来いよ! 俺は世界一のサイドバックになる男だ」

今はいい流れに乗れていても、必ず悪い流れのときが来る。
何度も繰り返しているけれど、
悪いときこそ自分が1ランクも2ランクも成長できるチャンス。
だから、僕はいつも苦労がくるのを待っている。
そのときの準備をしながら、待っているんだ。

僕には誰にも負けない向上心がある。
そのことをチームメイトに示すことで、
彼らは僕を信頼し、信用してくれた。

「インテルが僕を獲得したことが間違いじゃないということを証明したい」
契約終了後にクラブのホームページで発表された
移籍成立のニュース用のインタビューで僕はそう語った。

「こんな選手たちの中でやっていけるのか」
一瞬頭の中にそんな思いがよぎる。
しかし、足下にボールが来た瞬間、弱気は消え去る。
「やってやろうじゃないか。
世界一のサイドバックになるために、僕はここへ来たんだ。
今は差があって当然。ここから這い上がっていくだけだ」

僕はまず、「監督を好きになろう」と考える。
やっぱり監督をリスペクトする気持ちがないと、
その監督のもとでは闘えない。
「なんだ、この監督」と思っていると、それがプレーに出る。
確かに試合に使ってもらえないと監督を批判する選手もいる。
でも本当にスゴイ選手だったら、使ってもらえる。
自分がダメだから起用されないだけなのに、
それを監督のせいにするのはおかしい。
(中略)他人の悪口を言うのは好きじゃない。
人間誰にでもいいところもあれば、そうじゃない部分もある。
つきあっていくのなら、
いいところをたくさん見つけてつきあいたいと、
いつも考えている。

「佑都の武器は、スピードでもフィジカルでもなくて、
相手の懐に入っていく力だよね」
インテルでチームメイトと楽しくやっている僕を見て、
事務所のスタッフが言った。
「どこへ行っても仲間といい関係が生み出せる。
それはひとつの才能」というわけだ。
もし、僕にその力が備わっているんだとしたら、それは、
相手をリスペクトしようといつも考えているからかもしれない。
そして、今まで、家族をはじめ、
たくさんの人たちが温かい愛情を持って、僕を育んでくれたからだ。

人生は一度きり。
だからこそ、チャレンジし、精一杯成長しなくちゃダメなんだ。
生きていることや生かされていることを幸せだと感じ、
一日一日を明るい気持ちで楽しく生きていきたい。
みんなに笑顔を届けたい。

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