『デビルマン』『巨人の星』『ジャングル大帝』
『サイボーグ009』『鉄腕アトム』『サザエさん』…

数え切れないほどの脚本を手掛け、なおかつ
小説家としても膨大な数の作品を発表し続けている
辻真先氏のエッセイ集です。

新しいものをどんどん取り込んでいく柔軟な姿勢に、
まず何よりも驚かされました。

圧倒的なイン&アウトプット量は凄まじいのひと言。
神様はこの人にだけ一日72時間くらい
お与えになっているのではと勘ぐりたくなるほどです。

そして、どの作品を語るにしても、
いつも優しさに満ちた視線を注がれていて
それが読者の心までほぐしてくれます。

次はぜひ、氏の小説に取り組んでみたいですね。
wikiを見てみると、どれも面白そうで、
何から読んでいいのか分からないのが
なんとも贅沢な悩みですが。

(以下、引用)
だが『エイトマン』の仕事は勉強になった。
絵面だけ面白そうなロボットでも、
リアリティがないと原作者からダメが出る。
「このロボットは、どこの国が、あるいはどこの組織が、
いくらの予算で作ったの? それだけの工業力があったの?」
エイトマン自体には、確固とした裏設定があり、
だからドラマをいくらいじっても揺らぎを見せなかった。
派手な見てくればかりを重視して、目に見えない部分を手抜きすれば、
ツケは間違いなく自分に回ってくることを、教えてもらった。

ぼくはこの作品(『クレオパトラ』)を封切り初日と千秋楽に観た。
驚くべきことに内容が変わっていた。
作品の出来ばえに不満だった手塚(治虫)が、
興行している間にフィルムに手を加えたらしい。
作家としては良心的だが、その結果は当然ながら金がかかる。
ぼくみたいに二度観る奴でないかぎり、誰も気がつかないだろう……。

「四コママンガをアニメにするのに、なぜ脚本が必要なんですか」
という質問はしばしばだった。
そこで番組(『サザエさん』)のごく初期に試してみた。
放映時間七分を四コマだけでつないでいったら、
なん本はいるかという実験だ。
結果は7分で30本を消化した。
ひと月かかって描かれた原作を、
テレビはたった七分で使い切ってしまうのだ。
テレビという怪物の凄まじい巨大な胃の腑。
長谷川町子三ヶ月の苦心の結晶が、30分で消えてなくなる。

劇場版『ドラえもん』は藤子(・F・不二雄)本人が亡くなるまで、
自分で脚本を書きつづけた。
20年あまりのむかし、放送作家協会が主宰する
劇画マンガ原作教室を担当した(させられた)ぼくは、
旧知のマンガ家を片っ端から講師に依頼したことがある。
手塚・萩尾・竹宮・梶原・水島・池上・古谷・永井・さいとうと頼みまくった。
もっとも熱意をこめて指導してくれたのが藤子・Fだった。

だが当の原(恵一)監督には10年の間あたためていた企画があった。
それがようやく具体化して、2007年に封切られた
劇場版アニメが『河童のクゥと夏休み』だ。
しんちゃんのくせ球と違って、
あらゆる世代に歓迎されていい秀作である。
(中略)
観終えて後しみじみと感じさせられる滋味は、
即席アニメでは絶対に醸し出すことのない奥深いものだ。

ぼく個人としては乱歩賞作家の野沢尚がシナリオを書いた
『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』(2002年)が、
原作つきのハンディを越えた傑作と考えている。

そんな中でシナリオライターの金春智子から、メールをもらった。
「『花田少年史』、いい出来ですよ。ごらんになりませんか」。
『花田』は2002年オンエアのテレビアニメだ。
このシリーズは金春本人も書いている。
遠慮深い彼女が自分の参加した番組を吹聴するなんて、
よくよくイイのだと思いふたつ返事で「観ます」といった。
送られてきたアニメは笑えて泣ける気持ちのいい粒揃いの作品群だった。
いい仕事をしてるなあ、マッドハウスは変わらないなあと思ったものだ。

10年先、20年先、『ぼくたちのアニメ史』の
続編がどう書かれてゆくか、
残念ながらぼくは見届けることができまいが、
明日のアニメ史を書く主役はあなたたちなのだ。
安堵してみなさんにバトンを渡します。
どうか末永くアニメを見守ってやってください。


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