ルーシー 「そこまで行けるかしら?」
ネズミ 「さあ、行ってみないと分かりませんね」

このやり取りに心をわしづかみに
されてしまいました。

ふつう、冒険というと必ずと言っていいほど
「素敵な」とか「素晴らしい」とか
「ワクワクする」とかいう冠詞がつきます。

でも、そんなのはネズミのいうとおり
「行ってみないと分からない」ことじゃないですか。

それと同じ理屈で、あることが本当かどうかは
「信じてみないと分からない」わけで、安易に
「信じていればきっと叶う」みたいな嘘っぱちを
言わないところがとても気に入ったのです。

今回見たのは吹き替え版2D。
ユースチスの声担当の朴王路美さんが
特に素晴らしかったです。

ユースチスはずーっと文句ばかり言っていて、
もう爆笑の連続でした。

役者ではルーシー役のジョージー・ヘンリーが
めちゃめちゃ可愛いです。

なぜか役の上では、容貌にコンプレックスが
あるという設定みたいですけれどとんでもない!
笑顔がとてもキュートでした。

そしてCGがすごすぎです。
ネズミもドラゴンも表情豊か。
嵐もリアルだったし、海のなかを游ぐ
半透明人間みたいなのもよくできていました。

ストーリーは飛ばすとして……(汗)

見終わった後、喫茶店に入り、聞くともなしに
周りの会話を聞いていると、ほとんどが不平不満や
悪口のオンパレードなのに気づかされました。

それほど『ナルニア』の登場人物たちの心が
綺麗だったということでしょう。
知らぬ間に浄化してもらっていたわけです。

文句ばかり言っていたユースチスは、
冒険が終わる頃には自分がどれだけ
イヤな人間だったかに気づきます。

今後はエドモンドやルーシーと
楽しくやっていくことでしょう。

ここではたと気づきました。
ユースチスは私ではないかと。

エドモンドとルーシーは、前からいい子だったのに、
ユースチスのせいで暗い毎日を送っていました。

(どうもこれは戦時中のお話で、エドモンド兄妹は
ユースチスの家に疎開しているという体らしいです。
1,2を観てないので……スミマセン)

自分もユースチスと同様、まわりに
毒をまき散らしていることがよくあります。

ユースチスをどうこう言える立場じゃないのです。
そして私が機嫌よくすれば世界は機嫌がいいわけで。
(ちょっと大げさですが実際そうだと思います)

どんなに素敵な場所も、心もち一つで
いまいましくて退屈な所に様変わりします。

文句を言えば文句だらけの街になる。
心に一番怖いものを思い浮かべれば
それは形となって現れる。
世界は想像の通りに現実化する……。

ちょっと観念が過ぎるかも知れませんが、
いにしえからの心の秘密が、
ここに解かれているように思います。

だから、この物語はファンタジーの域を超えて、
現代の神話として機能していると言って
いいのではないでしょうか。

「さあ、行こう! 運命を見届けに」

これも抜群にカッコイイセリフですね。
冒険の書を自分の手で書いている感じがします。
こんな気持ちで毎日を送れたら最高でしょう。

「君はまだナルニアに必要だ」

「君」とはユースチスのことです。
これは逆じゃないか? と思ったのですが
きっとこれでいいのですね。
「自分が必要とされている」と感じられる国。
それがナルニアなのだと思います。

逆に言えば、現代に生きる人間はつねに
自己重要感に飢えているということになります。
そんな時代が続く限り『ナルニア国物語』は
必要とされ続けるのでしょう。

何よりもすごいのは、少年たちがナルニア国から
現実世界に戻ってきても、そこはちゃんと
ナルニア国と地続きになっていることです。

その恩恵は観客も受けることができて、
映画館を出た後も、ナルニア国にいるような
気分がなかなか抜けませんでした。

当意即妙の例えじゃないのは重々承知の上で
言わせていただきますと、この
"心が浄化された感じ"は、村上春樹作品の
読後感と通じるものがあります。

どちらも「ネズミ」がキーワードだけに。
……って、全然オチてないし(泣)。

監督: マイケル・アプテッド
原作: C・S・ルイス
音楽: デビッド・アーノルド

キャスト :
ベン・バーンズ
ゲイリー・スウィート
スキャンダー・ケインズ
ウィル・ポールター
ジョージー・ヘンリー